【今月読んだ本①】
チェーン読書の愉しみ:その2
● 「戦争と日本人」、この本のねらいは加藤氏が「はじめに」に書かれています。副題が「テロリズムの子どもたちへ」となっていることに関連があります。
この副題は有能な政治家を子ども=(未成年という意味だけでなく、義憤や短慮から暗殺・テロ・クーデターを引き起こしてしまう、その気性を持った人を指している。)が暗殺をしないようにと願って付けられたものです。
● まえがきから抜粋すると、「日本とアジアにとって今後100年が、平和で繁栄ある世紀となりうるか否かは、日本の対中態度にかかってくる。中国の対日態度にかかってくるのは無論のことだ。そのような大状況のなかで、天をめぐらす器をもった回天の政治家が子どもたちに暗殺されてしまうことなど一切ないように願いたいと思っている。本書はそのような子どもたちを生み出さない、産み落とさない社会を祈念して書かれた。-以下略-」
● こういう対談を読むメリットは、歴史の事実について新しい知識が得られること、それぞれの発言者の意見とその根拠について理解できることがあげられます。なかには根拠なき発言も見られます。発言内容を区分けしながら読み、自分で考えるための論点を見出すことが本当のメリットでしょう。
●「たかじんのそこまで言って委員会」などのTV番組で語られる右傾化した発言ばかりではなく、左翼知識人を自認する佐高氏の発言やリベラル(?)な加藤氏の発言は自分で考えるための必要な情報でしょう。
● さらに私から見れば佐高氏のちょっと傲慢な人物評価がわかりやすく面白いですね。氏は人物名をあげるときに、政治家を呼び捨てにするのは一般的かもしれませんが、例えば丹羽中国大使や桜井よしこさんを呼び捨てにするかと思えば、寺島実郎氏や目加田説子氏は「さんづけ」で呼んでいます。(笑)
● この表現の区分の根拠は何なんだろうかと推測するのも面白いものです。面識があるかないか、好きか嫌いか、なんらかの思い込みか、氏は何らかのバイアスがかかった発言をされるんですね。丹羽氏の元の会社伊藤忠商事に対する憶測にもとづく発言などは時折物議をかもすジャーナリストらしいです。
● そういうのを見分けながら読むのも愉しいですね。ちなみに加藤氏は亡くなった政治家や軍人以外は「さんづけ」で発言されています。この本はおそらく発言したそのままを収録されているのでしょう。人柄も伺えていいですね。
● この本の最後に佐高氏が故五味川純平氏の大作「戦争と人間」全18巻、三一書房刊(同社は倒産、廃刊)なかに出てくるセリフを書いておられます。それに触発され、光文社文庫版の同書の太平洋戦争編「裁かれる魂」全6巻の一部、二部を読みました。
● 同書は今回で3度目です。五味川氏の小説は岩波文庫で「人間の条件」全3巻が発売されていますが、戦争と人間は再発売の気配がありません。おそらく左翼文学として無視されているのか、歴史を書いた部分が難しくて読みにくいからでしょう。
● 私は、最初にこの小説を17歳から35歳の18年間で読みました。戦争の話もさることながら五味川氏の男目線の恋愛小説の部分におおいに共感しました。人の心理がうまく表現されていて読み応えがあります。今読んでもいいですね。
● 最後の4巻は作家の澤地久枝さんが注担当から外れられると性愛描写が過激になります。戦争に行った男は極限状況の戦場で女性のことばかり考えていたのかと思わされます。五味川氏の体験からするとそうなのかも知れませんが、私もそうなると思いますね。
● ちなみに私の長男の名前は本書の主人公からとって付けました。最後は死んでしまうとは思わなかったので残念でした。戦争に批判的であった彼が、戦後をどのように生き抜くのかを期待していました。次男が生まれた時は、主人公の友人の名前にしようと思っていましたが、彼も死んでしまうのでやめにしました。
● 最近古書店で「敗戦後論」加藤典洋著、ちくま文庫に出会い入手しました。太平洋戦争開戦70周年の今年は、あの最後の戦争について私の好奇心はうごめいているようです。
● 時代小説に戻しましょう。関川夏央氏の関連で原作のコミック「坊ちゃんの時代」谷口ジロー画、双葉社刊を再読しました。この本は第2回手塚治虫文化賞受賞の作品です。初版は1987年で私が最初に読んだのは1998年です。
●「凛冽たり近代 なお生彩あり明治人」のキャッチコピーどおり、夏目漱石、森鴎外、石川啄木、幸徳秋水、樋口一葉、平塚らいてうなど同時代の文人の群像を描いた全5巻の大作です。大人の鑑賞に応えてくれる作品だと思います。
● なぜこのコミックに関心が行ったかというと、今年、この本のオールカラー版が発売されたからです。いま私の欲しいものリストに登録されています。
神戸か大阪の都心の大型店に行かないと実物が見られないので未購入です。まずは手持ちのものを毎月1冊じっくり愉しもうと思っています。面白い!
● 関川氏の本では紹介されていない時代小説家の作品を2冊読み始めました。1人は津本陽氏、もう1人は佐伯泰英氏のものです。津本氏の作品は双葉文庫から再発売の「柳生兵庫助シリーズ」です。この作品は以前、文春文庫にて全8巻で発売されていました。
● 1991年ですから20年前ですね。すでに古本屋に処分していたので今回、双葉文庫版を再購入しています。昨年10月から3ヶ月に1冊のペースで再発売されています。すでに2巻目を読んでいます。面白いですよ。
● 内容は映画のロードムービーのような構成です。若き日の柳生兵庫助の諸国武者修行に忍者の男女と家来が同行しながら困難を乗り越え成長していく様が描かれています。
● この種のものは昔からだい好きで、少年時に読んだ貸本屋時代の山手樹一郎ものから柴田錬三郎の「眠狂四郎シリーズ」、「運命峠」、笹沢佐保の「宮本武蔵全15巻」、最近では平岩弓枝の「隼新八郎シリーズ」など記憶に残っています。
● 津本氏は剣道をやっておられるので殺陣の描写が本格的です。剣術というのが論理的にわかるように書いてくれます。それもまたこの小説の愉しめるところです。司馬遼太郎氏もそうですが、作家が壮年期前半の小説の方が面白い場合があります。津本氏もそうで、老年になるにつれて円熟されるのですが、当方はついていけず最近は敬遠しています。このシリーズの再発は愉しみです。
● 一方、作家として高齢になられても面白いのが、故池宮彰一郎氏でした。しかし今回気になって読み始めたのが今年68歳の佐伯泰英氏です。57歳で本格的に時代小説デビューをされ居眠り磐音シリーズ他、平成のベストセラーを連発されています。しかし今まで一冊も読んだ事がありませんでした。
● 最近、新潮社から新・古着屋総兵衛シリーズ第1巻「血に非ず」を発売されました。「おそらくこれが私の最後のシリーズになるだろう」とおっしゃっています。最近、癌が見つかったようで、治療しながらの仕事になるそうです。
● 第1巻を読みましたが面白いですね。流石に売れているだけのことがあります。文字も大きくて読みやすい。中高年の私には助かります。第2巻以降、どれだけ愉しませてくれるのでしょうか。渾身の作品を期待します。
● 最後は関川氏の本にも出てくる吉村昭氏の「敵討」新潮文庫です。先週土曜日(2月26日)にテレビ放送された藤原竜也主演の「遺恨有り」の原作である「最後の敵討」が収録されています。ドラマはとても見ごたえがありました。
● まだ読んでいませんがこの本にはもうひとつの敵討ちが収められています。それが天保・弘化年間に江戸の護持院ヶ原であった敵討ちです。この題材と同じ時代を扱ったものに松本清張の「天保図録」全3巻新潮文庫があります。
● 実はこれは1年ほど前に最後のところまで読んで、挫折した本です。あと50ページぐらいですからこれをきっかけに最後まで読んでしまおうと思いました。天保の改革がテーマですから水野忠邦、鳥居耀蔵、そして小悪党の本庄茂平次が出てきます。
● 最後に思い出しましたが昨年読んだ本で、失脚後の鳥居耀蔵をモデルにした宮部みゆき氏の「孤宿の人」全2巻新潮文庫も感動的な話でした。しかし女性作家の書いた歴史、時代小説はなぜかわたしにはもうひとつ乗っていけません。要因はわかりませんが一気に読めないことが多いですね。
● 年末から最近にかけての私のチェーン読書を書き連ねました。なぜか不思議と次から次へと関連した著者が目に付くのです。「敵討」の解説も野口武彦氏です。氏の著書では「幕末バトルロワイヤル」シリーズを読んでいますが、最新刊が先ごろ発売されました。また欲しいものリストに書き込まれました。
● 読書はビジネス書ばかりではなく小説やノンフィクションも愉しんでいます。しかしプロ野球が開幕するとそちらに時間もとられますのであと1ヶ月である程度は終息しなければなりません。時間は有限ですからね。(笑)<完>
- 登録日時
- 2011/03/02(水) 11:44