【今月のトピックス②】
映画『人間の條件』を観て思いついたこと
● 先週1週間は毎晩、NHK BSプレミアム放送の映画「人間の條件」全6部作を観ました。10数年ぶりの鑑賞でしたが十分に堪能しました。50年も前の映画だとは思えないほど充実した作品でした。
● 実はこの映画、下の息子(29歳)と6日間一緒に見ました。私が無理やり誘ったのです。酒を飲まない息子とあまり時空間を共有することは少なくなったので、この1週間は楽しいひとときでした。
● 息子はえらく感動したようです。推薦した身としてはそれもまた嬉しいことでした。そんななか映画鑑賞の途中や終了後に交わした会話を反芻しながら気づいたことがあります。
● それは会話が弾むには、お互いの「意見」を言い合うより私が「質問(尋ねる)」することが重要だということです。いきなり私の感想や意見を言うと、息子は自分が喋れる場合しか反応しませんでした。
● 親父が自分の感想や意見を言って聞かせる状態になっています。こういうのは職場でも上司と部下の間でよくあることです。それでは会話というのは発展しませんね。
● 私がいくつかの質問を中心に会話を進めると、自分の考えを何とか返事してきます。それを繰り返していると、やがて息子も自分の感想や意見を言うだけでなく「質問」をしてくることがわかったのです。
● それともうひとつ「会話」の内容を、映画の内容(ストーリーや個々の場面)だけでなく、役者の表現力や「あの場面はどのように撮影したのか」など「表現方法」について話題にすると、会話が広がっていくということです。
● 私はこれをマトリックス図にしてみました。縦軸に質問(尋ねる)と感想・意見とし、横軸に内容と表現方法としてみました。
そうすると4つの桝目ができますね。(実際に図を書いてみてください)
● その桝目に息子と交わした会話を思い起こしながら、それがどの桝目に入るかを分類してみました。そうすると内容に関する質問が一番多く、感想・意見は少なかったのです。また表現方法については質問が少なく、感想・意見が多かったのです。
● これを見ながらこの状態はわれながらOKだと思いました。内容については息子も最も関心が高いと思うので、それについては私の感想や意見を先に投げかけないで尋ねて聴き役にまわる。
● 表現方法については、息子が気づかない視点を投げかける。それは映画を同時に観ているので、内容に惹き込まれている息子に鑑賞の視野を広げる会話になるのではないかと思ったからです。
● そこで表現方法について質問をしなかったのは息子を試しているようで、嫌味になるのではないかと懸念したからです。相手から質問ばかりされると嫌な気分のなることがありますね。私の場合はそういう経験があります。
● こんなふうに書くと、「家族のなかでそこまで気を使って会話をするなんて」という意見もあるかもしれません。しかし「質問と自分の意見をミックスして使いこなす」、これを自然にできるようになるのは会話を弾ませるために必要だと思います。
● ちなみに私と息子のどういう会話がそれぞれの桝目に入ったのか、具体例を紹介しておきましょう。
● 内容に関する質問:梶の生き方をどう思う?(大きくは3つの状況で、個々のエピソードを捉えて)
● 内容に関する意見:やっぱり戦争はやってはいけないね。
● 表現方法に関する意見:当時20代半ばから後半なのに仲代達矢の演技は迫力があったね。特に目チカラはすごいな。
● 表現方法に関する質問:(第4部の戦闘シーンを見終わって)凄い迫力だね。あのタコ壺の上を危機一髪、戦車が通り抜けるシーンはどうやって撮ったんだろうね。
● その後、この4つの桝目をほぼ均等の量になるよう、自問自答で質問や意見を書き出してみました。簡単なのは自分の感想や意見でした。ところが質問は誰かを想定しないと出てきにくかったですね。幸い私は息子を対象にその場でできなかった質問を考えました。
● コンサルティングの仕事で質問する(尋ねる)場合は目的が明確です。しかし家族や友人ではただ単にその場の会話を弾ませようというプロセスに焦点をあてていますから、明確なねらいはありません。
● そういう状況では相手の立場になること。すなわち自分の意見を言いっぱなしにするような発言より、相手が答えやすいような投げかけの質問をする方が会話は発展しやすいでしょう。あるいは相手も乗ってきやすい話題の提示を行なう意見の発言。いずれも意識を相手に向けることが大切です。
● 久しぶりに映画「人間の條件」に浸りながら、明確な目的をもたない日常会話を快適にするには、ということを考えてみました。そういえば映画の主人公、梶も自分の意見にとらわれすぎた会話が多かったように思えました。
● 敵対しない、愛する妻美千子や同僚の沖島、軍隊での丹下、寺田にも自分の考え(意見)をぶつけていたように思えます。そんなことをすれば生きにくいだろうに、と思うのは、俗人の考えかもしれませんが・・・。理想を実現するには手段も選ばなくてはならないのにという感想を抱きました。
● ま、映画ですから断片的なエピソードがクローズアップされています。画面に出てこない多くの日常会話があったはずです。ですから必ずしも的確な指摘とは言えませんが・・・<完>
- 登録日時
- 2011/08/24(水) 10:29