▲コスモスの花の季節ですが、またまた夏に逆戻りの気温です。暑っ!
【9月の提案】
知って、つかんで、動かすは仕事のコツ
■ 私がサラリーマン時代からコンサルタントになってまで一貫して行なっている仕事のコツがあります。それは課題(目的、目標)を決めれば手段は、「知って、つかんで、動かす」という考え方と手順で行うことです。
● これは30代のころ、サラリーマン時代にあるコンサルタントの先生に教えていただいたものが原型です。私は実践を重ねながらその考え方や手順に、別の先生に教わった考え方と方法も取り入れ、自分なりのものとして活用してきました。今回はそのエッセンスをご紹介しましょう。
● この手段が効果的なのは、課題解決、商談、部下育成といった局面です。課題解決とは、私の場合は小売業出身なので、主に「業績目標の達成」「クレーム対応」などでした。商談は「訪問営業」と「店頭接客」です。部下育成は「目標合意面談」と「プロセスや結果に基づく育成対話」などが代表的なものです。
● 基本となる方法は、お医者さんの「診察→診断→処方箋」と同じやり方です。病院へ来た患者さんを診て、いきなり処方箋をくれるお医者さんはいませんね。必ず診察からはじめます。診察とは問診や検査ですね。これが「知る」という段階の仕事の手順です。
● では知る目的は何でしょう?患者の現状実態を把握することですね。それはどこに症状を発生させている要因があるかを探し出すためです。そして現状実態を把握するためには、できるだけ事実にもとづいて調べます。
● われわれの仕事でもこのやり方が必要です。ところが経験豊富になってくると、およその検討がつくので早く答えを出そうとします。ですが、お医者さんはあくまで慎重に調べます。調べることで全ての要因が明らかになるとは限りません。その場合は「こうではないか」と仮説をたてられます。
● この現状実態を「知る」努力は非常に重要です。それは、私たちの持つ予断や思い込みを出来る限り排するためです。この段階で一番間違いやすいのが、自分の経験やそれからくる考え(思い込み)にとらわれ、それに基づいて急いで答えを出すことです。
● 先にあげた局面を思い起こしてください。業績目標の達成のための戦略・戦術を考える際には、対象となるお客様、販売する商品、競合の動き、いままでの販売手段などを吟味します。それから「何がポイントだろうか」と考え、それから「これからどうしようか」と考えるのが定石です。
● クレーム対応も、お詫びに続いて、クレームとなった事実とそれを申し立てるお客様の気持ちやねらいを把握することから始めますね。これも急いでお客様の状況を把握しないで解決しようとすると失敗します。
● 訪問営業もお客様の状況把握から始めます。いきなり売り込むと断られてしまう経験をされた方は多いでしょう。店頭販売も接客する場合は、お客様の来店意図や要望の確認、欲求の度合いなどの把握から始めます。いきなり「これが良いですよ」という販売員の方もたまには居ますが、上手くいきませんね。
● 部下との目標合意対話も、現状の実績分析からはじめます。私の場合、これについてはあらかじめ会社からのトップダウンの目標設定がありましたから、その配分を部下に納得させるために、納得の可能性を広げるテクニックとして、現状分析と部下の気持ちをはかった記憶があります。
● 訪問販売の部門長をしていたとき、ある程度実績をあげていた優秀なセールスマンにより高い目標を納得させようとしたとき、お互いに煮詰まってしまい最後は強引に納得せよと迫ったことがあります。その時、部下から「無理です。私はマシンですか?」と言われ一瞬ひるみそうになりました。
● その時は納得させる説得ができなかった記憶があります。最後は強引に押し切ったと思います。おそらく目標合意対話で部下の状況や気持ちを十分に把握し、納得させる根拠を見出せないまま対話を行なったからでしょう。
● 私の記憶では、私に予断があったと思います。部下の方に無理のない前年並みの予算で合意し、実績では目標達成をしようと考えているのではないか、という思いです。今ならもう少し論理的に実証できたのではないか、あるいは部下の心情もつかめたのではないかと思います。
● 育成対話の場合は、目標はゆるぎないものですからそれを基準に、いろんな助言を行いました。その場合、いきなり助言(対策)をするのではなく、実態把握の質問、可能性の探索、心理状態の確認、そして話を聴くだけでなく、現場確認を行ったものです。これを行なっているうちに専門外の商品でも助言のアイデアが浮かびました。
● この「知る」という行為は、3つのステップで最も重要です。成果につながる対策を生み出すには虚心坦懐、素直に実態を把握することをおススメします。知っている事実から考えるより、調べた事実から考える方が効果的な対策を考え出すことが可能になります。
■ 次に「つかむ」というステップです。これは調べた実態から「診断する」ことです。病気の場合はどこに要因があるのか、もっとも重要な原因は何かが問われます。これは病気とは、平常よりうまくいっていない状態だからその要因・原因をさぐることになります。
● 通常の仕事では、課題により「通常より上手くいっていない状態」と「現状に問題はなくとも、これからもっとこうしたいという目的や目標」を課題とする2つの側面があります。
● うまくいっていないことを何とかする課題の場合は、お医者さんのやり方が適用できます。しかしこれからもっとこうしたいという課題の場合は、要因・原因を探すのではなく、解決のために「重要なポイントは何か」という成功の決め手(K・F・S)を探す必要があります。仮説をたてるとも言います。
● 問題解決技法の「要因分析」や「原因探索」も必要な能力ですが、この「重要ポイントの発見」は「つかむ」というステップではとても重要な能力です。これは知識と経験が求められます。ですが、このステップを踏まないで仕事をしていると、いつまでたってもポイントを掴む能力は磨かれません。
● 重要ポイントの発見には、マーケティング思考・技術や部下の能力把握、強みの活かし方、顧客心理などについての見識が必要になります。
■「つかんで」というステップが的確にできたなら、「動かす」ための適切な手段は容易に導き出すことができるでしょう。
● 予断や思い込みによる対策手段より、的確で適切な手段を選ぶということは、お医者さんも我々も求めるものです。そのために「知って、つかんで」から「動かす」を考える方がよいということはお解りいただけると思います。
● しかし、「動かす」にはもうひとつの側面があります。それは対策手段を確実にやりこなすという行動力の必要性です。成果=行動の質×行動の量×行動のタイミングという公式があることは、本欄のコラムでも述べたことがあります。
●「動かす」というのは的確な対策手段の選択ということで終わりではありません。それを実行するという条件について手を打つことです。仕事には期限があります。その期限内でやりきるための、モチベーション、コントロール、判断基準などの方法も身につけなければなりません。
●『知って、掴んで、動かす』を要素分解していって、それぞれの方法と手順と心構え、必要条件などを学ばれることが仕事を上達するコツです。それはこのステップで経験を積むという実践によってのみ体得できるものです。ぜひお試しください。<完>
- 登録日時
- 2011/09/10(土) 11:28