【今月のトピックス②】
ハーバート・ビジネス・レビュー 2012年7月号より
JCペニー・カンパニーCEO ロン・ジョンソン氏へのインタビュー記事
続『アップルストア成功の教訓』
● 前回のコラムはいかがでしたか?自問自答の役に立ちましたでしょうか。ロン・ジョンソン氏の最後の問い2つに対する回答はぜひ立ち読みでもしていただきたいですね。
● 今回はこの記事を昨年末に英文で読まれてメルマガ【今月の提言】で紹介してくださった島田陽介先生の読後感を転載させていただきます。
●島田先生は流通業の指導コンサルタントとして70歳を越えた今もご活躍です。随分前からアンチ・チェーンストア理論をとなえられ、独自の視点で戦略論、組織論を提唱されています。著書も多数書かれていますのでその考えに触れることはできます。以下、本テーマに関する卓見をお読みください。
■ ハーバード・ビジネス・レビュー12月号の特集は、珍しく流通業である。だがご多分に漏れず、その特集の大部分はネット販売にささげられている。私にいわせればそこに何ら新味はない。むしろ思いもかけぬ収穫は、同誌によるそのネット販売の旗手であるアップルの「アップル・ストア」のトップであった、事実上「アップル・ストア」を立ち上げ・成功させたロン・ジョンソン氏とのインタビューにある。ジョンソン氏は、かつてターゲットを、少なくともファッションにおいてはウォルマートを断然しのぐ存在に仕上げた当の責任者であった。
そこをスティーブ・ジョブズに見込まれて、アップルがショッピング・センターに出す「アップル・ストア」の責任者に選ばれた。氏はアップル・ストアを仕上げた後、現在はJCペニーのトップに就任している。だがインタビューの趣旨は、以上のテーマ設定からネット販売の一端を担う「アップル・ストア」を、いかに仕上げたかに集中している。ところが氏は、そのインタビューにおいて、先ずこう主張する。
ネット販売を過大視してはならない、なぜならいまだにネット販売は全消費(車は除く)の9%を占めたにすぎず、しかも年率10%の伸びしか示していない。店舗販売は前途多難なのではなく自分が仕上げたアップル・ストアのように、むしろ前途有望なのである。ただしそれは「店舗販売」がすべて有望だということではない。
氏がトップに就任して最初にやったことは、「セールス・マージン」の全廃であった。米国は日本とちがって、高額品例えば貴金属、化粧品、スーツ、家具、家電・・・・といった商品については、販売した販売員には10%以下のセールス・マージンが支払われるのがふつうであり、それが業界の慣行になっている。アップル・ストアが売っているのは、iPhoneやiPadやラップトップ・パソコンのような高額家電であり、当然販売員はセールス・マージンを期待する。
ところが氏は、アップル・ストアの任務は、商品を売ることではない、と断言する。「買うと決める前に、ぜひ試してほしい」その場こそアップル・ストアである。だからお客の事情を聞いて、彼に必要なものがアップル・ストアに売っていない、他店で売っているものであっても、それを試すよう勧めるべきである。
お客に「店を愛してもらうこと」が、先ず必要なのだ。多くの店に欠けているのは、店舗規模でもサービスでも安さでもない、お客がほんとうは何をしたいと思っているかを探る「想像力」である。
ネット販売の未来にもろ手を挙げて賛同できないのは、ネット販売でもっとも有力な武器は、先ず安さであり、次に便利さだからだ、と氏は断言する。この二つはほんとうの「価値」を生まない、と氏はいう。なぜならそれは果てしないコストダウン競争、果てしないスピード競争しか生まないからである。
では価値を生むものは何か。1つは、売るのではなく、楽しませること。2つはそれにふさわしい店舗施設とスタッフをそろえること。そこで氏は、すべての店長候補と面談を繰り返した、という。その回数は6回から8回に及んだ、という。そこまで「見なければ」おたがいが理解しあえないからだ。なぜならインタビューとは、ダレかがダレかを見て、聞くことではなく、おたがいが見て・聞くことだからである。
そして実はそれは、店長候補と氏との間でのみ生ずることではない。店舗スタッフとカスタマーの間でこそ生ずることである。カスタマーを楽しませる店舗空間をつくるためには、カスタマーを見て・その声を聞かなくてはならない。
それはいわゆる消費者の心理を読むということではない。消費者一般ではなく、わが店・商品群・アソートメントのカスタマーである。心理を読むのではなく、観察することで、何を提案したらいいか考えるのである。客のニーズに応えるのではなく、客のニーズを創るのである。
ロン・ジョンソン氏はインタビューの最後で、こういっている。カスタマーの後ろを追いかけてはならない、カスタマーのニーズに応えるのではない、カスタマーをリードするのだ、彼らのニーズを予知し、それに応えるのだ。多くの場合、それはカスタマー自身が思っても見ず・考えもしなかったニーズである、と。iPhoneもiPadも、もまさにそうであったように。
ではいま氏が取り組むJCペニーはうまくいくのか。それは私の問題ではない、と氏は意外な答えを口にする。個人ヒーローの多い米国(スティーブ・ジョブズを見よ)では珍しい発言である。過去に学んだことすべてをそのまま信じてはいけない、自分の技術も限界もよくわかっている、JCペニーの未来を決めるのは、JCペニーのスタッフというチームなのだ。私ではない。
ネット特集の同誌に、このロン・ジョンソン氏のインタビューのみはひとり光彩を放っているというのが、私の読後感である。そしてこのインタビューでも、果たして「見ること」「聞くこと」いや耳を傾けることの重要さが語られている。個人ではなく、チームが重要であることも、語られている。(11/12/09)‐ここまで引用。
● いかがでしょうか?素晴らしいコラムですね。記事の読み込み方とご自身の主張を上手くミックスされて提言されているところが学べます。私たちも読んだものを何から何まで信じ込むのではなく、ヒントにして自分の現場を観て、聴いて、それから考え、手を打つ。そのような自問自答されることをおススメいたします。
● 尚、島田先生が今回の提言に反映されていると思われる主張の要点は、
① トップが現場巡回する目的は、自らがあれやこれやと注意、指導するのではなく、現場でお客を観察し、お客の声を聴いている従業員の声に耳を傾けることである。
② 店にとっての顧客はコンシュマーではなくカスタマーと捉えなければならない。
③ 店はカスタマーのニーズに応えるのではない。必要なのはニーズを創り出すことである。
④ カスタマーを育てるのは品揃えではなくアソートメントという価値提案でもって実現するのだ。
以上です。詳細は島田先生の著書を参照してください。<完>
- 登録日時
- 2012/06/25(月) 11:26