【2012年7月の提案②】ビジネスパーソンの能力地図づくり<2>
カッツ教授の「スキル3要素理論」とは?
● 6月にビジネスパーソンのための能力地図づくりについて試論をまとめると提案いたしました。まだまだ各論は曖昧なのですが、全体の構成は以下の5つの能力大分類をもとに地図をつくるつもりです。
● その5つとは①カッツ教授の『スキル3要素理論』 ②組織開発における『ソーシャルスキル』 ③実践の価値を再認識する『行動力』 ④社会で働くための『基礎能力』 ⑤こころと体の『資質』です。
● 最初は、カッツ教授の『スキル3要素理論』から手がけていきたいと思います。
● ハーバート大学教授のロバート・カッツ教授が提唱された「スキル3要素理論」については、本欄コラムの2010年5月25日付でも書いています。そちらを参照いただければ良いのですが、探すのが面倒な方のために再掲しておきます。
● 3つのスキル要素とは①テクニカルスキル ②ヒューマンスキル ③コンセプチュアルスキルです。言葉の意味を日本語にすると①は業務遂行技術(何かができる能力のこと)ですね。例えば工場での仕事なら組み立てラインで必要な製品を正しく組み立てることができる。小売店の店頭なら業種・業態で差がありますが、商品の入荷検品や陳列とか接客販売、補充発注などです。
● このスキルはビジネスパーソンにとって最初に身につけなければならないものです。しかも数年もしくは数十年にわたって身につけていきます。同一業務だと経験により熟練して行くんですね。
● このスキルがないと仕事が遂行できないので、目標の達成は覚束なくなります。また業務改善などの知恵も出てきません。まさに仕事の責任を果たすための必須スキルと言えます。
● このスキルは最初のうちは先輩や上司から教えられます。ですがほとんどはその後の実践経験から自ら学ばなければなりません。経験を積まないと身につかないスキルです。そこで求められるのは覚えが早く、確実にこなす、スピードが早いということです。
● 無論、失敗をすることもあるでしょうが、めげないで同じ過ちを二度と繰り返さない慎重さ、学習能力が求められます。そのためには経験した出来事をメモしておくとか、日記に書いて反省を習慣づけることです。
● 新しく社会人となったビジネスパーソンが最初に躓くのはこの段階です。先輩は自分の仕事で精一杯という人も多いので、手取り足取り教えてくれるとは限りません。ここでミスを重ねると馬鹿にされるとか、場合によってはいじめに合うことがあります。
● この段階では打たれ強い精神力がものをいいます。しかし私は、一人で何とかしようと頑張ってはいけないと思います。自立するまでは他人に甘えること(依存する)ことも必要です。そのための条件は「素直な心」と「愛嬌」と「一所懸命頑張る態度」だというのが私の経験則です。
● 仕事はこのテクニカルスキルを身につけ、磨き上げる過程で、同僚や上司との ②ヒューマンスキルが求められます。同時に経験から学ぶ工夫を習慣化するなどという ③コンセプチュアルスキルも必要になります。
● ではヒューマンスキルとは何か、それは対人関係能力と訳されるように、自分以外の人との関わり方です。対象はお客様、上司、先輩、同僚、友人などになるでしょう。
● その中核となるスキルは、コミュニケーションスキルです。コミュニケーションスキルとは、お互いの意思疎通をはかる手段・技術です。例えば、上司との関係では「報・連・相」といわれるように、報告、連絡、相談に関することです。お客様との関係では「たずね、聴く、答える」という流れを意識して応対できることです。
● 先輩には上司と同じく、タイミングが重要です。まず相手の都合を確認することが求められます。そして筋道の通った話ができる、求められない限り手短に話すこと。また相手に動いてもらいたい場合と自分の行動の了解を得るのでは話し方が変わってきます。
● また同じことを何度も尋ねないようにしましょう。尋ねられる方は同じことを何度も尋ねられるのは嫌がります。そのためにもメモすることは必須です。
● 同僚とはライバル関係になるとか、友人になることもあります。人間関係にはギブアンドテイクが発生しますから、お金ではなく共感するこころや知恵や労力で貸しをつくる精神で対応すべきでしょう。但し相手からの返報は期待しないことです。
● ここでコミュニケーションにおける発信と受信の量について知っておくと良いでしょう。一般的には上司は自分に対して発信量が多く受信量は少なくなります。もし自分に部下や後輩がいると同じようにその人に対して発信量の方が受信量より多くなります。
● 発信と受信の量のバランスが取れやすいのは同僚であり、同期であったりします。このことを知っておけば、コミュニケーションの重要な柱である『尋ね、聴く』ということを意識して増やすことができます。
● よくコミュニケーションを良くするには他人の話を『聴け』と言われますが、正しくは『尋ねる=質問をする』ことに慣れることです。相手が話かけてくれるのを待っていて、それから聴くのではありません。きっかけは自分から作るのです。
● 相手が話し出せば、意識を相手に向けてよく聴きながら、自分の伝えたいことも伝えるのです。これはより良く生きて行くための基本的なスキルです。一生かけて学ぶスキルと言えるでしょう。
● ちなみに『7つの習慣』で言えば、4、5、6の習慣がヒューマンスキルに関することですね。
● 3つ目のコンセプチュアルスキルとは、そのまま訳せば「概念化能力」ということですが、これではちょっとわかりにくいと思います。具体的には仕事をしていくうえでの、思考力、行動習慣、判断・決断力などでしょう。
● それを使うには大きく分けて2つの分野があります。ひとつは目標を設定しそれに向かって計画を立て、実行過程をコントロールしながら、良い結果を出していく力、それからやったことから学び、経験をその後の力の蓄積にできるというスキルです。
● 戦略的思考力というのもこの分野に含まれます。
● もうひとつは、問題を解決することです。これもあらかじめ問題を発見して解決するスキルと既に起こった問題をより良く解決するというスキルが求められます。
● 『7つの習慣』では1から3と7の習慣が該当しますね。
● カッツ教授はこれらの3つのスキル要素は、仕事の職責が増えていく過程で必要性に差が出てくるとおっしゃっています。一般社員の時代、管理職の時代、事業責任者の時代、あるいは社長では求められるウェイトが違うと言っています。
● これはわかりやすい理屈です。ただこれからの時代は、1つの会社で40年も働くというのは減ってきます。転職の機会も増えるでしょう。若いうちに起業をするとか、自営業で働くということも増えてきます。従って、ある一つの組織の中で出世していくというプロセスを前提にしたように思えるこの理論にも応用が必要でしょう。
● 次回は2つめの大分類であるソーシャルスキルについて概要を書く予定です。3つのスキルの上達法や参考書の紹介などは、5つの大分類の説明が終わってからまた触れることにいたします。<続く>
- 登録日時
- 2012/07/11(水) 14:47