【8月に読んだ新聞・本・見たビデオ②】
『選択の科学』をビデオで観る<その1>
● コロンビア大学ビジネススクールのシーナ・アイエンガー教授が先月来日され、慶応大学で白熱教室を開催されたというニュースは先日書きました。朝日新聞の記事に触発され、昨年末にNHK Eテレで放映された「コロンビア大学白熱教室」のビデオを再見しました。
■ 放映は全5回、5時間あります。その内容は以下のとおりです。
第1回:2011年11月27日(日)
「あなたの人生を決めるのは偶然?選択?」
第2回:2011年12月4日(日)
「選択しているのは本当にあなた自身?」
第3回:2011年12月11日(日)
「最良の選択をする方法 選択日記の勧め」
第4回:2011年12月18日(日)
「あふれる選択肢:どう選ぶか」
第5回:2011年12月25日(日)
「今の100ドルと1ヶ月後の120ドルどちらを選ぶ」幸福になるための技術
● 今回は第1回から3回までの放映のポイントをお伝え致します。本シリーズは教授の著書「選択の科学」がベースになっています。詳細は本書を読まれるか、放映内容をNHKビデオオンデマンドでご覧になってください。(有料)
● 本講座の主張は『選択こそ力なり』です。私たちの人生においては、いくつかのターニングポイントがあります。それを「偶然や運命に身を任せるのではなく、自ら選択することこそが人間を人間たらしめている」というのが基本テーマです。
■ 第1回の放映で教授は、ご自身の体験といくつかの事例を3つの物語として語り始めます。1つは運命の物語、2つは偶然の物語、3つめは選択の物語です。運命と偶然と選択の違いを事例でわかりやすく説明されます。受講生にも投げかけて考えさせながら進めていきます。
● 他の事例でもスティーブ・ジョブスや松井秀喜が出てきます。ヨットマンや登山家の物語で人間が選択することで人生を切り開く価値を伝えてくれます。その主な主張は、人間が最もストレスを感じるのは「自分のコントロール機能を奪われた時である」と。
● これを回復するには、失われたコントロール機能に対して、まだ何かできることはないかというリストを作成し、それをひとつひとつ実行するしかないと言われます。
● 自分で「選択する」というコントロール機能を駆使することが、今日の自分を明日なりたい自分へ変える唯一の手段である。それこそが選択の力であるというのが第1回の主張です。但し選択がすべての特効薬であるとは言っておられません。
● 事例を「物語」で紹介されると見ていてイメージがしやすいですね。言わんとすることは1つに絞り(「選択こそ力なり」)、そこに導くのにいくつかの魅力的な事例を物語として語る。その合間に受講生に自分の考えを発言させるという方法は見事です。
■ 第2回のテーマは、自分で選択していると思っていることが本当に自分自身で決めたことかという問いかけです。自分で決めたと思っていることが、実は周囲の人々や自分の国の文化の影響でそう仕向けられたのではないかという問いが投げかけられます。
● 教授はここで「選択に関する4つの問い」をあげて各国の文化の違いの影響について説明します。文化の違いはそれぞれの国の人々によって、「見るものが違う」ということと「見たものの解釈が違う」というお話が興味深いですね。
● この回は興味深い話ですが、日本人のことだけを対象に考える私にとっては、実用的ではないので省略します。ちなみに選択に関する4つの問いは書いておきます。
● ①誰が選択するのか ②だれがそれを支配しているのか ③選択はどんな違った理解のしかたがあるのか ④意味のある選択をするには何が必要か
これらは文化の違いによって人の選択に関する4つの問いの答えは違ってくるということを調査結果で実証してくれます。
■ 第3回は本講座の中核となるものだと思います。この回だけでもNHKオンデマンドでご覧になることをオススメいたします。
● この回のテーマは「最良の選択について考える」です。最初に受講生に、過去に間違った選択をしてもついまた同じ選択をしていませんか?と問いかけて問題提起をされます。
● その理由を事例(過去の有名人を取り上げて)でもって説明していきます。出てくる人物はチェス王のガルリ・カスパロフ、リンカーン大統領、宮本武蔵と多彩です。
● 理由を要約すると、選択をする時に人間の脳は近道をしようとする。すなわち直感に頼ることが多い。もうひとつは、選択をする時に「バイアスがかかる」(偏見や先入観)ということです。
● バイアスには「初頭効果」や「親近効果」があると教えてくれます。それを防ぐには、選択肢に「具体性」を持たせることや、単純接触(頻度の高い接触は相手を身近に感じやすく、好きになる可能性が高い)の効果も知っておくほうが良いとのこと。
● 直感にのみ頼ることの危険性、バイアスの存在に気づかない判断と決定は避けなければ良い選択ができないと提唱されます。解決策の結論は『情報に基づく直感=理性と直感の中庸』ということです。
● つまり理性的な選択を通じて得た情報をもとに直感を駆使するということです。具体的には、決断をしようという時に、
①何を知っているかを自分に問う。
②枠組みを変えて、正反対の視点で考えてみる。これが理性的な選択。
● しかし理性的な判断だけでは不十分です。なぜなら理性的判断でも間違いやすいからです。これを防ぐには①過去の選択の情報を分類整理する必要がある。②他からのフィードバックに耳を傾ける。③失敗しても別の方法を試す。という3つの鍛錬を習慣付けなければならない。
● それによって、自分の「知識の限界」を知ることができる。それはあなたを「過信」から救ってくれると言われます。
● では直感とは何か、社会科学者ハーバート・サイモンの言葉で定義を説明してくれます。それは「直感とは、認識以上のものでもそれ以下のものでもない。認識の1つのパターンである」と。
● 直感はひとつの認識に過ぎないということは、ほかにも認識するパターンがあるということですね。それだけに偏るということは間違いやすい。だから直感には理性という認識パターンとの融合が必要だという主張になるのですね。
● 教授は「情報に基づく直感」を駆使するために、チェス王ガルリ・カスパロフ氏の言葉を引用し次のことを提唱します。
●「先を見ないで今そこある選択肢に集中し、それが何か、どんな要素が含まれているのかをよく見ること。それらを正しく評価すれば、何を選ぶべきかが自ずと見えてくる」と。
● その能力を身につける具体的な方法が『選択日記』をつけることだということです。この内容については教授の新著「選択日記」を参照してください。書き込み式の実践的メソッドです。本の右側が書き込みページ、左側に教授の教えが1ページずつにまとめられているので読みやすく解りやすいですよ。
● 考え方だけでなく実践へのメソッドが用意されているのは実践的です。大小さまざまな選択をしている私たちですが、曖昧な記憶に基づく直感頼り、偏見や先入観に気づかない自分から解放し、自己を成長させるのに適した教えとメソッドだと思います。
●第4回、第5回のビデオを見たコラムは次回とさせていただきます。
一時の暑さが和らいできました。夏バテをしないように気をつけて、オリンピックの応援をしましょう!
<続く>
- 登録日時
- 2012/08/09(木) 15:22