【8月に読んだ新聞・本・見たビデオ③】
『選択の科学』をビデオで観る<その2>
● コロンビア大学ビジネススクールのシーナ・アイエンガー教授が先月来日され、慶応大学で白熱教室を開催されたというニュースは先日書きました。朝日新聞の記事に触発され、昨年末にNHK Eテレで放映された「コロンビア大学白熱教室」のビデオを再見しました。
● 尚、慶応大学での講義の模様は8月27日(月)Eテレで午前0時から午前1時まで放送されます。(26日深夜ですよ)第1回は「人生の選択の極意を伝授する」です。シリーズのテーマは「リーダーになるための選択の技術」です。興味のある方は是非ご覧下さい。(私は録画ですね。眠いから-笑)
■ 昨年末の放映は全5回、5時間あります。その内容は以下のとおりです。
第1回:2011年11月27日(日)
「あなたの人生を決めるのは偶然?選択?」
第2回:2011年12月4日(日)
「選択しているのは本当にあなた自身?」
第3回:2011年12月11日(日)
「最良の選択をする方法 選択日記の勧め」
第4回:2011年12月18日(日)
「あふれる選択肢:どう選ぶか」
第5回:2011年12月25日(日)
「今の100ドルと1ヶ月後の120ドルどちらを選ぶ」幸福になるための技術
● 前回は第1回から第3回までのまとめを紹介いたしました。重要なポイントは第3回の選択日記の提案にあることもお伝えしました。今回は後半のうち第4回についてご紹介します。ここから内容が変化します。
● シーナ・アイエンガー教授はこの回の講座では、「多すぎる選択肢の問題点、その要因、対処法」の3つについて話をしてくれています。主に販売における選択肢について言及されています。但し業種・業態ごとに適切な選択肢はいくつかというような直接的な答えは得られません。
● それは業界や商品特性や販売方法によって違ってきます。たとえば私たちに身近なコンビニエンスストアの品揃えは、各企業が毎日のように仮説→検証を繰り返し、独自のノウハウを身につけています。
● ここではあくまで「多すぎる選択肢が与えるマイナスの影響」について研究成果を発表されています。そこから実務家は自分たちのビジネスに参考になるものを学び取るべきでしょう。以下順を追ってまとめてみましょう。
● まずは「人は豊富な品揃えに惹かれるが、なぜか選ばない場合が多い」という問題提起が行われます。受講生に問いかけながら、自らが実証された「ジャムの実験」を紹介されます。20年くらい前の実験ですが、同教授の代名詞のようになっています。
● そして選択肢が多い時に起きる3つのマイナス、なぜマイナスかの3つの要因、選択肢が多すぎる問題点を克服する3つの処方箋の9つに分けて解説が行われます。この3つずつにまとめるというのも、覚えやすく3という数字の効用を活用しています。
■ 選択肢が多い時に起きる3つのマイナスとは。
①現状を維持する傾向がある。
②利益に相反する選択をする。
③選択の結果に満足しない。
● どういうことかというと、
①は、人は多くの品揃えに魅力を感じて集まってくるが、多すぎる選択肢を前にすると「また今度にしようと」選択を先延ばしにすることが多いという実験結果の紹介です。
● ②は、選択肢が多いという複雑な状況は、そこにメリットが含まれていても必ずしも得をする選択肢を選ばないという事例の紹介。(米国の健康保険制度の例)
● ③は、選択肢が多いと満足度が低いという説明。ややわかりにくい。
多すぎて選択時間がかかるとか、迷うのでフラストレーションが溜まるのでしょうが、実証データは提示されていません。
● 次に選択肢が多いとなぜマイナスなのかという理由。
①知覚判断と記憶力の限界。
②わずかな違いを見分けられない。
③個性的な選択をしようとする。
● 少し解説が必要ですね。
①は、人間は一度に多くのことを覚えられないという理由。これには専門知
識の差が影響するとの注釈がある。自分が詳しい分野だと一度に多くの情
報は処理できるが、そうでないと難しいということです。
● ②は、似たような商品はこれも専門知識の影響があるが、一般の人々には違いを見分けることは難しいからというのをご自身が体験したマニキュアの事例で説明してくれています。
● ③は、教授が最も力を入れて説明されていました。「選択とは機能的であるというだけのものではない。私たちは選択にあたって自分の個性を出そうとしている」。つまり他人とは違ったものを選びたいという意識が強く働いているということです。
● 社会学者ニコラス・ローズの言葉を紹介しています。
「現代に生きる個人は、単に自由に選択できるのではない。自由に選択できることと、理解されることを強いられて生きているのである。」
●「必ず過去を解釈し選択した結果、あるいは選択して出る結果を未来として夢見るのである。」「その選択は選んだ順に選択した人の特徴が体現されていく。選択が選択した人に返って個性の表現となるのである」。
● 選択とは自由の実践であると信じられているが、自分の個性を表現し理解されたいという気持ちが同時に働いていると言われているのでしょう。そのためには、選択肢が多いというのはマイナスだというのですが・・・それがなぜマイナスなのか、もうひとつピンときませんでした。私の理解力が不足しているからでしょう。
● 最後に選択肢が多すぎる問題を克服する方法は?
①省く。
②分類する。
③複雑さを整理する。
● これももう少し掘り下げてみましょう。
①はALDIという小売業の事例を紹介されていますが、日本ではコンビニのセブンイレブンの30年来の取り組みである「死に筋カット」がこれに当たるでしょう。
● ②は、これも日本の小売業では研究されています。「商品分類」「売場分類」
は品揃え型の小売業にとっては重要テーマです。お客様にとって選びやすい分類、必要性に気づく分類の2つがテーマです。
● 私は家電量販店での現役時代に「商品力マップ」というものを創り、この分類づくり(大分類、中分類、小分類、少々分類)と小分類もしくは少々分類内の最適品揃えは何品目が適切かを研究したものです。1択は余程の人気商品しか通用せず、2択は少なく、3択、4択、5択が商品特性によって採用すべきと判断しました。それ以上は多すぎて無駄になりやすいからです。
● アイエンガー教授が指摘されるように、違いが明らかな商品は分類して、その中の選択肢を選びやすい数にする。教授は3択から10択でも良いというような発言をされています。これも商品によるのでしょう。明快な答えではありません。ですから自分たちで考え、実験して見極めるしかありません。
● ③は、オーダーメイドをする時の事例で語られています。ユーザーはオーダーメイドをする時の手順で、選択肢の少ない方から始めて順に複雑な選択肢に導いたほうが満足度は高い。逆に選択肢の多い方から始めると満足度が低く、おまかせになりやすいという実験結果を示されています。
● 教授が最後に、「選択それ自体は目的ではなく手段である」とおっしゃっています。手段には「可能性と限界」があるという認識さえあれば、目的に向かって試行錯誤、仮説・検証という働きができますね。具体的な答えは自分たちで見つけるしかありません。<完>
- 登録日時
- 2012/08/21(火) 10:18