【9月に読んだ新聞・本・見たビデオ①】
『選択の科学』をビデオで観る<その3>
● コロンビア大学ビジネススクールのシーナ・アイエンガー教授が7月に来日し、慶応大学ビジネススクールで白熱教室を開催されました。その模様は8月27日午前0時から午前1時までNHK Eテレで前編が放映されました。後編の放映は9月3日の同時刻でした。
● 先月から同教授の講義の模様を伝える「コロンビア大学白熱教室」のビデオを再見して本欄で概要をお伝えしています。
尚この放送は昨年末NHK Eテレにて放映されたものです。
■ 昨年末の放映は全5回、5時間あります。その内容は以下のとおりです。
第1回:2011年11月27日(日)
「あなたの人生を決めるのは偶然?選択?」
第2回:2011年12月4日(日)
「選択しているのは本当にあなた自身?」
第3回:2011年12月11日(日)
「最良の選択をする方法 選択日記の勧め」
第4回:2011年12月18日(日)
「あふれる選択肢:どう選ぶか」
第5回:2011年12月25日(日)
「今の100ドルと1ヶ月後の120ドルどちらを選ぶ」幸福になるための技術
● 今回はいよいよ最終回の第5回についてご紹介します。全体のまとめとなる講義です。
● シーナ・アイエンガー教授はこの回の講座では、「幸福になるための技術」と題して話を展開されています。
● まず「幸せとは何か」という定義を受講生への質問から探ります。しかし多様な意見が出て、ここでの結論は「普遍的な幸せの定義はない」ということになります。
● 教授の考えは、「幸せになるには内なる核(インナーコア)を発見すること」だと。ミケランジェロの言葉を引用し「すべて自分自身の中に真実が潜んでいる」。またアルベール・カミュの「人生とはすべて選択が積み重なったもの」という言葉を紹介されます。
● どうでしょう?ちょっと難しいかもしれませんね。要は幸せとは人それぞれの価値観に左右されるし、主観的なものだから客観的にこうだとは決めつけられないということでしょう。
● 個人の価値観、主観で判断するものだから結局、自分自身で目標を定めて、そこに向かって手段(行動)を選択して、よりよい結果を生み出せるように自己の選択に磨きをかけていきましょうということだと思います。
● もっと良い解釈があればご自身で見つけてください。
● 今回の講義のメインとなるのは『幸せになるための選択を惑わす4つの障害』についての解説です。その4つとは・・・
①数値にこだわりすぎること。
②自分の欲しいモノがわからない。
③幸せをもたらすものへの過度の期待。
④分かっていても間違った選択をしてしまう。
ということです。以下、順にもう少し詳しく紹介していきましょう。
● ①数値にこだわりすぎることが障害だというのは、選択に際して理性に偏り過ぎるなということです。恋愛中の恋人たちに対する調査の結果にもとづいて実証されます。自分たちは9ヶ月後にどのような状態になっているかという問いに対して、直感で答えた人と理由を述べて答えた人の追跡調査の結果、直感で答えた人の的中率が高かったというものです。
● ここでの主張は「直感を無視するな」という警鐘です。
● ②自分の欲しいモノがわからないという障害とは、私たちは、自分の欲求を刺激しているものがはっきりわかっていないという指摘です。またハーバート大学社会心理学教授のダニエル・ギルバート氏の言葉を借りて次のような指摘もされています。
●「私たちは常に幸せにつまずいており、常に環境に順応し続けている」。
心理学の「吊り橋実験」の話でも語られますが、私たちは直感にしても理性にしても環境の影響を受けて選択をするというのはなるほどと思いました。
(確かクルト・レヴィン氏の人間の行動=環境×個人の能力・特性というのがあった記憶があります)。
● ここでの主張は「欲しいものを手に入れることより、手に入れたものを欲しいと思える人間が人生において幸せになれる」という提言です。
● ③幸せをもたらすものへの過度の期待による障害とは、ちょっと正確にわからなかったのですね。要はモノや金は手段、幸せは人生の目的なのですが、人は手段に過度の期待をしてしまうという警鐘だと解釈しました。手段の目的化というのはよくあることです。
● ④分かっていても間違った選択をしてしまう障害というのが、今回の講義では多くの時間をかけて語られています。サブタイトルの「今の100ドルと、1ヶ月後の120ドルどちらを選ぶ?」にもありますように重要度が高いのかもしれませんね。
● 4歳の数人の子供に対するマシュマロの実験がビデオ放映されます。母親がマシュマロ1個を子供の前において、自分が戻ってくるまで食べるのを辛抱したらもう一つマシュマロをあげるからと言って部屋を出ていきます。
● 一人になった子供の様子が撮影されています。この実験の結果何%の子供が目の前のマシュマロを食べずに辛抱したか、教授はこの問を受講生に発します。みなさんならどう思いますか?
● 結果、受講生の多くはハズレでした。70%の子供が誘惑に負けて目の前のマシュマロを食べてしまいます。2個もらったのは30%の子供たちでした。オスカー・ワイルドの言葉「誘惑から逃れる最もいい方法は誘惑に屈することだ」を紹介して、私たちがいかに目の前の誘惑に弱いかを指摘します。
● サブタイトルの質問を受講生に投げかけて実証していきます。
● さて、誘惑にさらされた時に私たちの心の中に何が起こったのか?
ここでは直感が欲望に反応し、理性がそれを抑制しようとする働きをしているのだと言われます。
● ①の障害とは反対の事例です。理性でセルフコントロールできないとその後の人生で成功する確率が低いと。要は両方のバランスが大事だということですね。
● ここでの主張は、直感は今欲しいものは何かを教えてくれるが、理性は10年後に欲しいものを教えてくれるという提言です。
● またAかBかの仕事を選ぶとき、自分の内面(直感と理性のバランス)だけに頼らないで、他に同じような選択をした人のその後の結果を観察して学ぶことも必要だと提言されています。
● 私たちは、何かを選択したからには後悔することも当たり前に起こります。その時に挫折するのではなく、反省を踏まえて自己の内面に潜む真実を探し当てるよう、未来に向かってより良い選択ができるようになっていくことが大事だと。
●「選択した時から始まりである」という認識の元、直感と理性というツールを使って、より良い選択を積み重ねて自分自身の人生を幸せに導くのが生きるということだという教えでした。
● 選択には日々何を食べるか、どのようなテレビ番組を見るかなどいう小さな選択から、どのような学校に行くか、どのような職業(会社)を選ぶか、誰と結婚するか、車や家という高額品の購入など人生に対する影響力の大きい選択まで必ずやらなければならない局面がやってきます。
● その時に役立つのが今回の「選択の科学」という教えでしょう。共感された方はぜひ参考にしてください。
● 以上で5回目の講座の内容紹介を終わります。次回は8月27日と9月3日に放映のシーナ・アイエンガー教授の慶応大学ビジネススクールの模様を文章で紹介します。お楽しみに。<完>
- 登録日時
- 2012/09/04(火) 11:43