【今月のトピックス②】
オーケストラの指導も<知って・掴んで・動かす>だった
● 兵庫県西宮市には兵庫芸術文化センターというホールがあります。クラシック音楽や芝居を上演しています。ホールは大ホール、中ホール、小ホールの3つあります。
● 私はそこの会員になっています。目的はクラシック音楽のコンサートを聴くためです。定期演奏会が年間9回あり、その年間通し券を買っています。その特典の一つに定期演奏会を行う兵庫芸術文化センター管弦楽団(通称PAC)の公演直前のリハーサルに無料招待というのがあります。
● 2012年9月12日(水)は今年度の開幕を14日、15日、16日に迎える第54回の演奏会のリハーサルでした。今回の指揮者は同楽団の芸術監督である佐渡裕さんです。佐渡さんは9回のうち3回担当されます。やはり開幕は監督のお出ましです。
● 佐渡さんのリハーサルを見て、聴いていて気づいたのが表題の「オーケストラの指導も<知って・掴んで・動かす>だなということです。このことは当コラム欄でも過去に何回か紹介している『人を動かす極意』です。
● 私の研修等の事例ではお医者さんの話をします。「みなさん医者にかかった時、その先生は症状を聞いただけですぐに処方箋はくれませんね」と投げかけ、「まず何をしますか?」と問いかけます。
● だいたい「問診をする、症状を診る、検査をします」という答えが返ってきます。そこで「病名を確定する場合もあるし、検査結果を待つということがありますね」と確認して、それから「何をしますか?」と再び投げかけます。
● 概ねここで「病気により応急処置が行われるとか、処方箋が出され薬をもらう、あるいは重症だと入院ということになりますね」。と対話をしながら確認します。そこでこのプロセスを『調べて・知って、病気を特定し(掴んで)、それから処方箋(対策=動かす)』ですねと一般化します。
●「どんなお医者さんでも患者の顔を見て、申告だけでいきなり処方箋は出しません。そういう先生はいません。みんな<知って・掴んで・動かす(対策)>を自然に行われます」。「ですが、私たちの仕事ではどうでしょう?」と投げかけて問題意識をもっていただきます。
● 今回、この極意を伝えるのにオーケストラの指導法も同じだという話ができると思いました。お医者さんの話の方が一般的ですが、音楽の話の流れだとすると受け入れやすいと思うのです。
● 但し違う点が一点あります。佐渡さんは知るために楽員に質問などはしません。ご自分が求めるものと違うところを指摘するために知ろうとしているところです。あるべき姿に向かう場合に有効な指導方法ですね。
● リハーサルでは佐渡さんは、英語やドイツ語で話されるので何を言っているのかは私にはわかりません。ですがよく見ていると、演奏をさせて、途中で止めて、パート、パートへ指摘をされます。その時自分が欲するものを、声に出すとか、身振り手振りで伝えています。
● それからやり直しの演奏をします。また止めて違うパートに指摘をします。その繰り返しです。演奏を聴いて、自分の理想(求めているもの)と違うものを指摘し、その対策を言ってから再演奏です。
● 楽員はそれに一生懸命ついていきます。楽譜にメモを入れている人もいます。その具体的な内容は私にはわかりませんが、メロディーの出し方、リズムの取り方、全体のハーモニーという音楽の三要素について修正しているのではないでしょうか?(推測ですが)
● そこのところは素人の私はお手上げですが、佐渡さんの楽員の導き方、指導法は伺えます。「やってみて、気づいたところを指摘し、修正法をやってみせて、それからやらせる」。個人やパートごとのメンバーを対象にしながら他のパートのメンバーにも聞かせるというリハーサルでした。
● ですが、自分のパートではない指摘、指導には無関心な態度の楽員もいました。それも見えます。このオーケストラは世界各地から若手の音楽家(35歳以下)が3年間の修行で集まってきて、毎年少しずつメンバーが入れ替わるシステムで運営されています。
● 佐渡さんの指揮3回以外の日本人指揮者3人、外国からの指揮者3人の指導も受けて行きます。定期演奏会以外の演奏もあります。それらを経てどのように成長されるのかにも興味があります。
● ですがここでお伝えしたいのは、人を動かす極意は<知って・掴んで・動かす>だということです。私たちの人生においても先入観や思い込みを捨てて、素直に実態を観て、変革のポイントを掴んでから、対策行動をとるということを習慣にしていただければ、良い結果を生み出せるでしょう。ぜひお試しください!
● ちなみに今回のコンサートのテーマはアメリカです。ガーシュウィンの「キューバ序曲」「ピアノ協奏曲」そしてドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」の3曲。リハーサルの最後に佐渡さんが15分くらい小話をしてくれます。
● ドヴォザークのこの有名な曲は、彼がアメリカに渡ってアメリカの音楽を取り入れて作曲したそうです。その中身は「すぐにヨーロッパの音楽に戻ってしまい、ブラームス的になるんですよ。ドヴォルザークはホームシックにかかっていたのではないですかね」などと興味深い話をしてくれます。これを聞くのも愉しみのひとつです。<完>
- 登録日時
- 2012/09/14(金) 14:55