▲初秋の庭 涼しい秋が待ちどうおしいですね。
【2012年9月の提案②】ビジネスパーソンの能力地図づくり<9>
組織開発におけるソーシャルスキルとは⑦
グループスキルにおける戦略的思考力の必要性
● 前回の続き
●「ソーシャルスキル」の特徴は『空間軸』の視点で捉えていることでした。
それは5つの要素で構成されています。その5つとは、①パーソナルスキル(本人自身) ②インターパーソナルスキル(1対1の関係) ③グループスキル(小集団の関係) ④インターグループスキル(複数のグループ間の関係) ⑤組織行動スキル(大組織全体を対象にする場合)です。
● 今回のテーマは戦略的思考力についてです。グループスキルとの関連性で戦略的思考力の必要性についての見解を述べるのですが、結果としてはリーダーのパーソナルスキルにも通ずることになります。
● グループそのものが戦略的思考を行うには、リーダーがそのスキルを身につけていなければ実現できないからです。このようにインターパーソナルスキルやグループスキル、今後書きます上記④と⑤のスキルを身につけるということは、結果的にリーダーとしてのパーソナルスキルの充実、強化につながるということです。
● 昔から仕事が人を創る、責任ある立場の仕事を経験して努力したものは成長すると言われますが、まさにそのとおりです。仕事の成果を追求していると、②、③、④、⑤のスキルを使う必要性に迫られます。その経験がパーソナルスキルのレベルアップにつながるのです。
● さて戦略的思考力ですが、このスキルは先達の教えを学ばなければ身につきません。天性の素質がある方もおられるかもしれませんが、普通の人間には学習と実践の両方が必要です。
● まず「戦略」と「戦略的思考力」は違います。戦略を作り出すのに戦略的思考力は必要ですが、それだけでは十分ではありません。私の経験では効果的な「戦略」を創れるのは、限られた人だと思います。
● ある事業の経営者や、その事業に真摯に打ち込んでいる人、トップレベルのコンサルタントが戦略的思考力+αのチカラを発揮しないとできないと思います。そして戦略とは手段ですから、その前に目的・目標の策定が必要です。さらに戦略を組織として実行する指揮官としての役割が必要になります。
● そして実行するだけではなく成果に結びつけなければならないのです。簡単なことではありません。思考力だけで実現できるものではないのです。ですが、優れた戦略を生み出すには、若いうちから戦略的思考力を身につけ、磨きをかける必要があります。
● 学生時代でも受験勉強に対する戦略的思考力の有無は成果に格差を生むはずです。社会人になるための就職活動、組織の中でのキャリア開発、転職や起業、営業マンとしての活動、グループのリーダーに任命され成果をあげる等、いろんなところでこのスキルの有無による格差を実感されているはずです。
● では共通することは何でしょう?それは戦略も戦略的思考力も目的は何かを達成する(得る)ための手段であり、『競争相手に勝つため』のものです。ですから独自性や差別化が問われます。それは競争優位性が求められるからです。
● そのことを押さえておいて、戦略的思考力とは何かを明らかにしておきましょう。これがわからないと何をどのようにして身につけていけばよいかがわかりませんね。世の中には優れた先達が沢山おられ、優れた著書を発表されています。まずはそこからの学びを紹介します。
●「企業参謀」という名著を書かれた株式会社ビジネス・ブレークスルー代表の大前研一氏、本書の冒頭に出てくる「ものの本質を考える」の項に次のようなノウハウを書かれています。
● 設問の仕方の訓練が必要とあり、次のような例が示されています。
例:残業が慢性化している会社で、しかも業績が思わしくないとき、「残業を減らすにはどうしたらよいか?」という設問をすると・・・<中略> 一般的でいろんなレベルの対策が出てきて良い対策がまとまらないと指摘されます。
● そこで設問を次のように変えると・・・
「当社は仕事量に対して十分な人が居るか」「当社は仕事の量と質に対して人間の能力がマッチしているか?」
● そうすると、成果の本質である質と量にかかわるところに切り込むことができると書かれています。
● もうひとつの例:売上が伸びないある製品をかかえたA社、先ほどと同じように「売上を伸ばすにはどうしたらよいか?」という一般的な質問をするのではなく、「当社の売上が伸びないのは、シェアが伸びていないからなのか?」と変えれば・・・
● 売上=マーケットサイズ×マーケットシェアの公式から有効な対策に掘り下げていくことができるなどが紹介されます。
● そうすると戦略的思考力とは『ものの本質を考えること』だという捉え方ができます。これは私のお気に入りの意味づけのひとつです。
● もう一点、私がよく参考にしたのは大阪大学教授の梶井厚志氏の「戦略頭脳」という著書です。(2003年サンマーク出版)。この本は体系的に書かれています。理論的背景は「ゲーム理論」です。
● 4つのキーワードが示されます。①戦略的環境→ほかの人はどのような行動をとるか。 ②インセンティブ→良心を期待してはいけない。 ③コミットメント→自分のとる行動を前もって表明する。 ④シグナリング→コストがかかってこそメッセージは相手に響く。
● 戦略的環境を把握するための7つのステップが紹介されます。さらに4つの戦略パターン ①のりしろ戦略 ②アスピレーション戦略 ③WW戦略 ④ロックイン戦略 それらが交渉事や転職、プレゼンテーション、部下を動かすなど6つの局面での使い方が示されます。参考になりました。
● 興味を持たれた方はぜひ著書を読んでください。
● では私が考える戦略的思考力とは何か。両先生の教えとともに、現時点では以下のようにまとめています。
● ①何かを行うときには「目的」を考えそれを達成すための「手段」との関係性を明らかにすること。 ②「短期」の成果とともに「中長期の影響」を考えること。③対象について可能な限り全体像を掴んで、部分、細部と体系的に考えること。④手段は仕組みと仕掛けに分けて考えること。⑤仕事は優先順位(重点思考)づけと劣後順位(ドラッカー先生の教え)づけを行い、選択して集中すること。⑥競争相手のことはできる限り実態を調べ、比較して自分たちの強みを活かすこと。⑦思考はフレームワーク、フォーマット、パターンで考えをまとめること。
● ひとつひとつの詳細はまた別の機会に書きます。
● 他にもまだまだあると思います。波及効果を考えるや相乗効果を考えるなどなど、それぞれの仕事を通じて考えられるものを抽出してみてください。沢山知っているだけでなく、使いこなして成果につなげることが重要です。
● 近年参考にしているのは経営コンサルタントの佐藤義典氏の「戦略BASiCS」を使ったマーケティング戦略の考え方と、同氏の有料メルマガによるケーススタディです。実践の場が減ってきましたので紙上でトレーニングしています。これも戦略的思考力を磨くひとつの方法です。
● 最後になぜグループスキルに戦略的思考力が必要なのかを述べておきます。コンセプチュアルスキルではP・D・C・Aと問題解決(仕事研究)スキルと戦略的思考力の3つが重要だと述べました。
● グループのリーダーとしてチームマネジメント遂行する時に、メンバーの衆知を結集するには仕事研究の方法が良いとオススメしました。ですがいくら衆知を結集しても、課題に対する良い対策を生み出せないと成果にはつながりません。
● 良い対策を生み出すには、仕事を研究的に行うことで気づくなり、アイデアが出てくることは多々あります。しかし、課題によっては実態を把握し、重要ポイントを探しても見つからないことがあります。
● その場合は対策の仮説を立てる必要があります。実態を踏まえて考えるのですが、メンバーの現状のチカラだけでは思いつかないことがあります。それを助けるのは戦略的思考力です。
● これをグループに注入するのはリーダーの役割です。リーダーが戦略的思考力を身につけていて、それを使えばメンバーに好影響を与えます。そこからメンバーの良いアイデアを引き出すことが可能になります。そしてメンバーたちの成長にもつながります。
● そうして導いた仮説の対策を実行して、その実態としてのプロセスや結果を検証することが良いチームづくりへの善循環になります。
● このようにリーダーは答えをメンバーに与えるのではなく、答えの導き出し方を教えること、良い答えを生み出す思考力を学ばせることで、メンバー個々の主体性を活かすチームマネジメントができるのです。
● もちろん状況によってはリーダー自身が答えを出してそれをメンバーに実行させないといけない時もあります。その時はその答えに至った「理由」をメンバーに説明することが必要です。「理由」が分かれば納得度に差があってもやることへの打ち込み度は下がりません。<完>
- 登録日時
- 2012/09/18(火) 11:05