【9月に読んだ新聞・本・見たビデオ④】
慶応大学での「選択の科学」後編 『選択の達人になる方法』
● コロンビア大学ビジネススクールのシーナ・アイエンガー教授が7月に来日し、慶応大学ビジネススクールで白熱教室を開催されました。その模様は8月27日午前0時から午前1時までNHK Eテレで前編が放映され、後編の放映は9月3日の同時刻でした。
● 今回は9月3日放送の後編から、そのポイントを文章で紹介します。すでに4回に亘って同教授の講義の内容を本欄コラムで紹介していますので、重複しないように気を配りながら、「選択の科学」の真髄に迫りたいと思います。
● 今回の受講対象者は慶応大学ビジネススクールでMBAをめざして頑張る学生(社会人学生も多い)たちです。2回に共通するテーマは「グローバルリーダーをめざす人たちのための選択の技術」です。後編のテーマは『選択の達人になる方法』でした。
● 優れたリーダーはどんな能力で選択しているのだろうか?という問いかけで始まります。今回のテーマは2つ。1つは「どうすれば賢い選択ができるか」。2つ目は「創造性を高める選択とは」。です。
■ 1つ目は、選択は理性によるものか直感によるものかという投げかけが行われます。理性派の代表として哲学者カントの言葉が紹介されます。
「人間の知識は直感から始まり、理解へと進み、理性として終わる。理性より尊いものはない」。
● 一方、直感派の代表は物理学者アインシュタインです。
「発見への道のりは理性とは関係ない。直感の飛躍が起きて、直感で答えが閃く。なぜ、どうやってかを私たちが知ることはない」。
● 他にも理性派として第3代米国大統領のトマス・ジェファーソンの言葉。
「理性こそが重要。すべてのことは理論的に考えるべき」。直感派として哲学者ヒューム「理性は直感の奴隷に過ぎない」。
● そして今日に至るまでこの議論は決着をみていないとおっしゃいます。
● そこでアイエンガー教授は研究成果に基づく自説で結論づけられます。とても受け入れやすい手法ですね。その結論とは・・・
「優れたリーダーは両方を使っている」。私はそれを『情報に基づく直感と呼んでいる』と。
個人的にはそりゃそうだろうというのが私の感想です。(笑)
● 以下、いくつかの事例でこのことを証明されます。内容は過去のコラムと重複しますので省略いたします。
● 理性と直感の両方を使うのですが、最初は情報を重視し理性的に考えることだとおっしゃっています。それを積み重ね、自分の中でパターンを覚えることで直感が磨かれるということです。日本では将棋の達人たちはそのような思考法で指し手を選択していますね。
● 具体的な手段・方法として『選択日記』をつけることで、理性から優れた直感を伴った選択ができるようになると説かれます。
● 選択日記については今夏発売の同教授の著書「選択日記」文藝春秋社刊がおすすめです。1ページごとにまとめられたエッセンス、いつ書いても良い日記のフォーマット、28個の選択「今日の言葉」など使いこなしたい本です。(980円税別)
■ 2つ目は、創造性を高める選択とは?というテーマです。
● まず創造性に対する誤解があると。それは①革命的なアイデアでないといけない。②選択肢は多ければ多いほど良い。
● しかし、選択の幅を狭められる人が創造性を発揮することがわかったとおっしゃいます。その例として数学者ポアンカレの言葉。
「発明とは無用な組み合わせを排除して、有用な組み合わせを進めることである。発明とは違いを見極め選択することである」。
● そして、『選択とは発明することと同じである』と結論づけられます。
①については述べられないのは自明のこととされているのでしょう。②については自説ですから強調されます。そういえばアイエンガー教授はしばしば権威ある人の言葉を活用して、自説の展開に持ち込まれます。
● これは心理学でいうところの「権威効果」を活用されているのですね。これも他人を説得する手法のひとつです。新聞・ネット広告や店頭POPでもよく使われる方法です。
● 創造性に対する3つ目の誤解として、③1人で考えた方が創造性は高まる。
これについては米国のかつての自動車王、ヘンリー・フォードの事例が語られます。生産工程の革新はフォードの発想ではなく、現場の従業員たちが家畜工場の見学で思いついたものを採用したという真実から、チームの方が創造性を発揮しやすいと結論づけられます。
● ここで創造性を高める技法を紹介されます。
Step1:多様な背景を持ったメンバーを集める。人数は奇数が良い。
Step2:メンバーは現場に足を運び、情報を集めてメンバー同士が共有する。
Step3:1人でブレーンストーミングを行う。
Step4:グループでブレストを行う。60分から90分。
● ブレストのルールを紹介
・批判は禁止 ・目標を明確にする ・どのようなアイデアも受け入れる
・他人のアイデアに乗っかる ・できるだけ沢山のアイデアを出すetc・・・
● Step5:1番のアイデアに投票する。
その時には選ぶ基準を設ける。例:実現可能で効果的でローコストなもの
● ここから実習が行われました。
まず1人ブレストから・・・課題は・・・
①毎日どんな時間のムダをしているか?
②ムダな時間を減らすための斬新なアイデアは?
米国のIDEOという会社の社員は30分間で150以上のアイデアを出しましたよ煽られます。
● 次に5人1組になって10分間のブレストを行いました。そしてグループごとに最も良いアイデアを2つに絞ります。選択基準はさきほどの3つです。
● 各グループより発表が行われます。
● まとめとしてアイエンガー教授の言葉は・・・
①リーダーシップとは、権力で何かを解決することではなく、よりよい選択をすることで未来を切り開いていくということです。
②選択の技術は科学的な方法で高めることができます。
③リーダーは自らの選択にも疑問を投げかける柔軟性が必要です。
④選択にも限界があることを知り、選択したそのものを手放すことができる人であること。
⑤多すぎるお金は人の欲望を際限のないものにし、多すぎる選択肢は人を迷わすものです。
⑥選択のチカラは人生の可能性を切り開くためのものです。そのチカラを信じて取り組んで行ってください。
● 以上で6回にわたってシーナ・アイエンガー先生のお話をまとめてお伝えしてきました。いかがだったでしょうか?参考になりましたか?実はこのコラムを書いた私が一番勉強したように思います。(笑)私のこれからの人生において、人生の一大事という選択はそんなに多くはないでしょうが、今まで以上に意識をして取り組みたいと思います。
● 残された人生の時間がまだまだこれからという方は、ぜひ取り入れて継続してください。「選択の科学」は強力な味方となってくれるでしょう。幸せな人生を送るために。
<完>
- 登録日時
- 2012/09/24(月) 09:48