【10月に読んだ・見たメディア①】
TV番組『ガイアの夜明け』家電量販店戦争の今!
● 久しぶりにテレビ東京の『ガイアの夜明け』という番組を見ました。日本経済新聞の提供ですから、日経の雑誌を読んでいるような内容が多いので最近は敬遠していました。ところが今回は「家電量販店戦争の今!」というタイトルに惹かれて見てみました。
● 私が家電量販店の出身ということもあり、最近はどのようなことが話題なのかを覗き見してみようという好奇心からです。この日は(9月25日)84分の拡大版でした。
● コジマ福井店の閉店から始まり、新たな勢力の台頭というので「価格com」の紹介です。つまりネット販売です。そのため家電量販店がショールームとして利用されているという事例の紹介です。これは今に始まったことではなく数年前から起こっている現象です。
● コジマはビックカメラに吸収されていくのですが、店舗の立て直しの事例が紹介されます。一時は業界トップの売上を誇ったコジマがなぜビックカメラに吸収されるのかという理由も解説されます。
● ビックカメラの方がコジマの店長に助言する店舗改装の模様は見ていて、まだこのようなレベルでやっているのかとがっかりしました。紹介されたのは品揃えの充実と売場づくり(部門配置の位置変更と陳列演出の充実)だけです。
● 本当はもっときめ細かい改善ポイントがあるのかもしれませんが、テレビで見る限りノウハウらしきものは伺えません。(あってもテレビで公開するわけはないですね)ただベスト電器を救えなかったビックカメラに大きな期待はできないのではないかと思います。
● テレビで紹介されていたコジマ宇都宮NEW東店の改装をモデルに10店舗ほど改装するようです。本当に再生するにはコジマが自分たちで検証して、何が重要ポイントなのかを掴んでいく組織にしないと必ず失敗するでしょう。
● それとビックカメラの都心繁華街型の店を参考にして、コジマの郊外型の店舗の品揃えや売場づくりを改善するというのはいかがなものでしょう。同じ人間でも都心に出かけて購入する人と近隣の店で購入する人の意識は違います。(たとえ同じ人であっても購買意識、行動に違いが出ます)。
● 都心では主に低中単価、持ち帰り可能、発展型商品(関連商品や消耗品が必要なもの)、消耗頻度の高い商品は数量が多く売れます。ですから品揃えが豊富であるべきなのです。お客さんは大商圏から集まってきます。だから駅前立地が適しているのです。
● 郊外型の店舗は、高額の生活必需家電(完結型商品)が売れますから主力です。大型商品の品揃えが必要ですからある程度の店舗面積が求められます。ですが関連商品や消耗品は売れ筋中心の品揃えで良いはずです。数量の売れない商品やいろんな珍品まで揃えると在庫効率が悪くなります。
● 陳列演出にはお客様の購買心理に沿った販売ストーリーが必要です。私が見る関西のビックカメラさんはこの点は少し充実してきていますが、果たしてコジマに注入されるでしょうか?テレビで見る限りでは疑念を持ちました。
店長さんが気づいていないからです。
● 後半は家電量販店ビッグスリーの戦略が断片的に紹介されます。最初がビックカメラというのは日経だからでしょうか?次がヤマダ電機、そしてエディオンの順です。今回はヨドバシカメラやケーズデンキという経営としては優良な企業は取り上げられませんでした。
● 各社の戦略トピックスを『アンゾフ先生の成長マトリックス』で整理して紹介してみましょう。このマトリックスは横軸に事業(商品)、縦軸に市場(顧客)を配置します。さらにそれぞれを「現」と「新」で区分けします。ですから4つのBOXができます。(このフレームはネットで検索できます)
● このマトリックスは事業戦略、マーケティング戦略の課題を分類するのに適しています。すなわち事業分野(商品)=何を、市場(顧客)=誰にと考えるのに適しています。それをいかに充実、拡大するかを考えやすくしてくれます。
● 戦略課題が決まれば、それをいかにして=手段、いつまでに、どれくらいの規模で、タイミングは、優先順位は、というように整理して考えやすくなります。今回はこの3社の当面の戦略課題をこの成長マトリックス表に基づき紹介しておきましょう。但し、情報はほとんどこのテレビ番組の範囲から得たものです。
● 現事業(商品)と現市場(顧客)の課題は、ヤマダ電機の山田会長がおっしゃられる『価格の安さの追求と実現』です。そのためには販売(仕入れ)数量が決め手だと。これは現在生き残っている家電量販店すべての共通戦略でしょう。敵は「価格com」に代表されるネット販売でしょうね。
● このBOXに入るもうひとつの戦略課題はエディオンGの中核企業であるデオデオのFCを巻き込んだサービス戦略でしょう。テレビでは地域家電店のFC化がクローズアップされていましたが、本当の戦略は都心大型店+郊外型中型店+地域家電店FCのネットワーク戦略による地域制圧(シェア拡大)です。
● そこに365日対応のサービスセンターの存在と、修理などで訪問した販売員がそのお宅の家電商品をすべて販売するという、地域家電店の良いところ生かしたものです。価格の安さだけでなく品選びやセッティング、使い方などを売り手に依存するお客様が一定数おられるからです。高齢化社会になればますますそのようなお客様は増えるでしょう。
● 但し、この戦略は中国地方、とりわけ広島県下におけるデオデオの戦略です。他の地域やグループ起業では実現されていないのではないかと思われます。
この成功戦略と蓄積されたノウハウがグループ全体に反映されないと、エディオングループの独自性は確立されないでしょう。
● 現状はここのBOXでの企業間競争が戦争と言われているものの実態です。消費者にとってどこで買っても変わりのないナショナルブランド商品ですから、①価格の安さ ②広い売り場と品揃え ③商品知識と接客応対でしか差をつけられないからです。それはほとんど同質化していて差が少ないのです。
● 現事業(商品)を新市場(顧客)に販売する戦略BOXでは、今までは新規出店がメインの戦略でした。それが飽和しつつある現状から、「M&A戦略」が台頭しています。今回取り上げられたビックカメラによるコジマの救済はそのひとつです。
● 都心駅前型店舗が中心のビックカメラは、手っ取り早く郊外型店舗を展開するコジマを吸収し、その顧客をまるごと取り込みました。但し、これらの店舗を活性化し、スクラップアンドビルドをしないとこのままではお荷物になりかねません。
● ヤマダ電機もM&Aではベスト電器を傘下に収めました。規模の利益を追求することが狙いですが、同時にベスト電器が持つ経営資源を取り込みました。それは東南アジアにおけるベスト電器の店舗網64店舗、現地法人を運営する責任者、営業実績などが、今後のヤマダ電機の海外出店戦略に寄与するでしょう。
● いずれの量販店もネット販売には進出していますが、「価格com」やジャパネットタカタにはかないません。おそらく店舗販売戦略が重点になるので、この分野は現状維持戦略だと思われます。
● 新事業(商品)を既存客に販売する戦略BOXで注目されるのはビックカメラとユニクロのコラボ業態の『ビックロ』の実験でしょう。女性客と外人客を取り込もうという意図のようですが、単なる部門の組み合わせでとどまるならば大きな飛躍はないでしょう。
● それよりもヤマダ電機のスマートハウス戦略は本格的です。国策にも乗っかって、環境にやさしいエコハウスは長期的に普及すると思われます。しかも住宅販売メーカーのエス・バイ・エルを傘下に収め、人材を8人から一挙に132人採用して営業活動に投入しています。
● 同時に群馬県板倉町に500戸以上のスマートハウスを建設し、街そのものを創るスマートシティ(タウン)構想に着手しています。これはパナソニックも神奈川県藤沢市に開発を進めており、今後が注目される戦略です。
● このボックスの戦略が発展すれば、最後の新事業(商品)による新規顧客の開拓につながるでしょう。家を新築した人は同時に家電製品を購入されることが多いからです。
● 以上が今回の番組を視聴して得られた情報による「家電量販店の戦争の今!」のまとめです。おそらく話題性のあるトピックスを取り上げたものでしょうから、隠された戦略は表に出てきていません。またヨドバシカメラやケーズデンキという優良(利益率が高い)企業の戦略は語られていません。
● 最後にヤマダ電機の山田昇会長がつぶやいていました。「この業界は常に新興企業に取って代わられた歴史がある。そうされないためにも『価格の安さ』が絶対条件である」。それを実現するのは「シェア=数量」という信念に基づいて、741店舗、3万6,000人の従業員を従え、今後もひた走る69歳の山田会長です。
● シェア争奪の競争は『出店と品揃えと価格競争が中心』です。体力勝負になるので山田会長が予言する最後に生き残るのは3社ぐらいになるだろうというのも的外れではありません。しかしそのヤマダ電機もやがて後継者と企業力が問われる時がくるでしょう。<完>
- 登録日時
- 2012/10/05(金) 11:33