【今月のトピックス②】
協働が必要な組織、そうでない組織
● 現在本欄でビジネスパーソンに必要なソーシャルスキルについて私が学んだことや私見を書いています。その過程でどうしても組織について書かれたメディアの記事が目に止まります。今回は7月と9月に読んだ朝日新聞の記事から気づいたことを紹介します。
● ソーシャルスキルについて書いていますが、現在はインターパーソナルスキルにさしかかっています。このことについては別掲のコラムを参照してください。そこで述べようとしているのは、組織においていかに『協働する』のかということがテーマです。
● 協働することで生産的な仕事をする。メンバーが生き生きと働けるにはという2つの課題を解決する能力(スキル)を身につける必要性と方法について言及しています。
● そこには、現状は異なった部門間では必要性があるにもかかわらずなかなか協働するのは難しいという問題意識があります。複数部門を統括するマネージャーになったとき、部門間を競争させるのはたやすいのですが、協働となると容易ではありません。心当たりのある読者もおられると思います。
● このことは9月1日の朝日新聞の記事で一橋大学名誉教授の野中郁次郎さんが記者のインタビューにも答えておられます。タイトルは「よみがえれ日本の経営」です。一部を抜粋しますと・・・
● 記者:日本企業は米国流を過剰に取り入れ、分析ばかり、細分化ばかり。はたまた暗黙知だけを墨守したのが不振の理由ということですね。その間米国は何をしていたのでしょうか?
● 野中:「私たちは1986年に『アジャイル(機敏な)スクラム』という考え方を発表しました。
日本の革新的な製品は、いろんな部署がラグビーのスクラムのように、専門性を生かし協働するプロジェクトを進めているという分析です。
● 当時米国では役割分担を決め、定められた仕事をそれぞれが進める方式が主流でした」。
「それから四半世紀たってどうなったか。先端産業であるソフト開発の分野を見ると、米国は日本のアジャイルスクラムを採用してさらに進化させていますが、日本は強みだったはずのアジャイルスクラムを手放し、採用率は先進国で一番低くなった。日本は80年代に歩んでいた道とは別の道を歩んでしまったのです。」
● そのほかの部分は記事をアップしておきますので上記の記号をクリックしてご覧ください。(大きい紙面ですのでうまく縮小できませんでした。2分割にしています。)
● 野中教授は日本企業が再生するには、企業内のミドルによる協働の必要性を説いておられます。それは過去には上手くできていたことをやらなくなったから、今日の停滞を招いているのだと結論づけておられます。
● このように、組織では異なった仕事をする人同士、異なった部門の人たちの『協働』が必要かつ重要であるという考え方は80年代からあります。そのための能力開発や実際の組織設計と運用は各企業で行われてきました。今日、それが衰退しつつあるというのは問題かもしれません。
● 私もビジネス人生の多くはそのことを意識しながら過ごしてきました。上手くできたとは思いませんが、ずっとその考え方を前提にいろんな局面に対応してきたものです。
● ですが、7月の朝日新聞のもうひとつの記事、一橋大学商学部長、沼上 幹
教授のコラム『組織の読み筋』-「全体最適」に潜む内向きエゴを拝読し、違った考え方もあることに気づかされました。
● 以下に一部を抜粋して要約を掲載しておきます。(全文は上記の記号をクリックしてください。)
● 日本的な組織運営の良さに組織の境界を超えた人材交流があると言われます。
本社と現業事業部、営業と工場の間、親会社と子会社等での人材交流は、「互いに相手をよく知っていて、相手の立場に立って考えることができる人材が育つから、個別部門のエゴが消えて全体最適を目指した調整が容易になる」とのこと。
● しかし、人材交流がマイナスの効果を持つ場合もあると。それは、原発事故における原子力を推進する側とそれを規制する側の人事ローテーションが行われていたために、規制が機能しなかった事例です。
● 他にもいじめの調査をした学校とそれを一段上から精査する教育委員会の関係もあげられます。
● このことは、もしかすると企業内の部門間でも起こっており、顧客や競争相手を無視して、自分たちだけでうまく「すりあわせ」をして「全体最適」を達成したつもりになっているのではないかと警鐘されています。
● 組織内で異なる部門間の協働は必要です。しかし協働ではなく互いに牽制し合う方が良い組織の状態がある。前者だけが全てと思い込まないで、状況によっては逆の方法をとる必要があることに気づく必要があります。
● 組織はある目的を達成するための『手段』であり『機能の体系』という認識が必要です。目的が明確に認識されて共有されていたなら、どのような組織間の関係が最適なのかということは誰にでも容易にわかることです。ですが、こんな簡単な道理がわからずに組織が運営されていることが結構あるんですね。
● 手段である組織そのものが目的化して、人事と社内政治のバランス化などが優先されることがあります。民主党の組閣のように多くが論功賞で大臣が選ばれ、何をしたい内閣なのか(目的・目標の明確化)が伝わらないなどと揶揄されているケースもあります。
● 組織を設計する時には、目的を具体化し何を果たすために存在するのかを考え、目的によって協働を促進する理由、お互いに牽制し合う理由をメンバーが共有するようにするのがリーダーの役割です。それで機能するのが健全な組織と言えるでしょう。
<完>
- 登録日時
- 2012/10/10(水) 11:06