【今月のトピックス⑤】
「うがった見方」について再考する
● 今月のトピックス①で文化庁の国語世論調査の結果から、本来の意味とは違う解釈で一般的に使用されている言葉を取り上げました。その後新聞でもこの話題が追跡されていました。(上の記号をクリックして記事を参照してください)
● 私は主に「うがった見方」という表現を取り上げました。最近の解釈では「疑ってかかるような見方」というのが多く、本来の意味である「物事の本質を捉えた見方」ということで使っておられるのは少ない、ですからあまり使わないようにしましょうと申し上げました。
● そういう問題意識を持っているとこの件に関する情報が目につくものです。まず、あるホームページではクイズが出されていました。「うがった見方とは」
という問で、以下の2つのうちどちらが正しい意味でしょうかというものです。
● A:疑ってかかるような見方
B:表面的ではなく、真相に迫った鋭い見方
正解はBですね。
● Aはやはり間違いなんだと再認識したところ、最近読んだ、読んでいる小説にこの表現が出てくるではありませんか。読んでいて、 (゚д゚)(。_。)とひっかかりました。
作家の方々もどちらでもとれるような微妙な使い方をされているのだなと。
● 紹介しますと、まず白川道(とおる)著「最も遠い銀河」幻冬舎刊(上)102ページから
『これから本題であるペンダントの製作を頼んだ男とその恋人の話を訊く。しかし気をつけなければならない。横田は最初にかけた電話と二度目とでは、李京愛の反応に若干のちがいがあったと言った。最初の電話のニュアンスからは、李京愛は、なぜ男が名前を言いたくなかったのか、その理由について彼女なりに薄々見当をつけているような気がしたらしい。だが二度目のときは、まったくわからないと言下に否定したという。もしかしたら男をかばっているのかもしれない。警察官時代に培った「うがった見方はなかなか直らない。」』
● これはAだともBだとも解釈できますね。
● もうひとつ、大沢在昌著「新宿鮫Ⅹ 絆回廊」光文社刊 259ページから
『「クスリをやっているかもしれない」ロックシンガーと、「クスリを取り締まる側」の警察官が「親しい関係」にある、と喧伝されれば、警察の活動が阻害されかねない、と危惧を抱く上層部はいるからだ。
さらに「うがった見方をすれば」、晶が逮捕されなかったとしても、それは晶が無実だからではなく鮫島との関係に配慮したからだ、という意見が、マスコミやインターネット上に表れるかもしれない。』
● これも微妙ですね。Aに近いようですが、Bと同じ部類に入る「物事の本質に迫った見方」とも解釈できるのではないでしょうか?
● 迷ってネットで検索すると、実用日本語表現辞典では、『物事の事情や背景を見通そうとした見解や考え方。詮索を含むものの見方』とありました。これってAもBも併せ呑む解釈ではないでしょうか?
● 他の人の記述で、『学研国語大辞典(第2版)では、①第三者がその事に関してみだりに憶測する。詮索する。②物事の隠れてわかりにくい面をたくみに言い当てる。真相をつく。という2つの意味を採用しています。
● また広辞苑(第5版)では、せんさくする。普通には知られていない所をあばく。微妙な点を言い表す。を採用しています。
ですから、「あからさまに踏み込んだ見方」とも「洞察に優れた見方」ともとれるということになります。
それはやはり程度問題なので、場合と文脈によって変わってくるのではないかと思います』というのもありました。
● YAHOO知恵袋では「穿つ」とは詮索するなどの意味に使われますので、穿った見方をわかりやすくすれば、「詮索するように見る」ということです。詮索とは普通では見られないところを暴くということになります。これが模範解答になっていました。これって先にあげたクイズのAですね。
● 文化庁の見解はAではなくBです。試験などで用例が出て解答を求められればBに近い方を選ばなければなりません。二者択一ならなんとか選べますが、作家の文章を示されて正しい使い方か、誤用かと問われれば難しいでしょうね。
● ということで、前回の私の解釈と意見は修正しなければなりません。言葉の意味を問われれば文化庁の指導ではBですが、用法はもう少し研究しないと自信がないですね。これからも「穿った見方」について「穿った見方」をしてみようと思います。(笑)<続く>
- 登録日時
- 2012/10/29(月) 11:37