【2012年11月の提案④】
コミュニケーション能力を考える<後編>
● 「コミュニケーション能力を考える」の最終回です。前回の続きから・・・
● 5冊目は菅原美千子著「共感で人を動かす話し方」日本実業出版社(2010年刊)本書で著者はコミュニケーションでは論理だけでは相手に伝わらない、よって相手を動かすことができないという問題提起をされています。
● それに対する解決策として「共感」が必要だということで、その具体的な手段・方法を紹介してくれています。本書の帯にも紹介されていますが、「なんで同じ日本語を話しているのに、通じないんだろう?」という問いをたて、その答えには哲学者アリストテレスの言葉を用意しています。
● それは人間の行動は①感情×②論理×③信頼の3つの要素が必要であるということです。この3つが揃ったのが著者の提唱する「共感」で人を動かすコミュニケーションということだそうです。
● 具体策を読むとそんなにやさしくはありません。いきなり「共感をつくるストーリー」から始まります。販売のストーリー化を提唱する私からすると共感できるのですが、このことは頭でわかってもやるにはかなりの努力が必要です。
● 2つめは「プレゼンス」です。プレゼンスとは『その人のあり方』ですと解説してくれます。それは言語メッセージと非言語メッセージの両面で形成されており、いずれも体系的に具体的なところまで教えていただけます。
● 3つめの「会話反射神経」についても興味深い内容でした。4つの鍛え方を詳しく教えてくれます。内容は理解しやすいのですが実践は簡単ではないと思いました。しかし練習すれば身につくでしょう。(私はまだ全てを実践していませんが・・・)
● 著者は定義づけをされていませんが、コミュニケーションの目的は相互に伝え合い、理解し合って、信頼を築くことだとおっしゃっているように解釈いたしました。そして『信頼を築く』ということには共鳴いたしました。
● 6冊目は池内俊博、内海透共著「いつも目標達成している人のNLP会話術」
明日香出版社(2009年刊)です。NLPとは直訳すると神経言語プログラミングと言います。ご存知の方もいらっしゃると思います。コーチングと同じように近年、その手段・方法は発達し広まってきています。
● 我が国でも近年入門書が出版され普及しつつあります。推進する人もおれば、これを批判する人もおられます。本書の著者らはNLPを現状の自分がなりたい自分になるための道具箱であると定義されています。
● 本書はNLPの入門書というよりタイトルどおり「会話術」に焦点を当てています。コミュニケーションについての定義は以下のように書いておられます。
● 当たり前に使っている言葉ほど「分かったつもり」で使われています。辞典ではコミュニケーション=意思疎通という意味で使われていますが、あなたの頭の中ではなんと定義されているでしょうか?
● 「お互いに理解し合い、笑顔で言葉を交わせること」と定義している人と、「ビジネスの用件を果たすために必要な情報交換」と考えている人が同じコミュニケーションという言葉を使って仕事をしているのが現実です。
● この本では、会話時の言葉だけでなく望ましい態度など会話時のミスコミュニケーションを減らし、目標に到達しやすくすることを目標にしています。
● 引用はここまで。
● 具体的には「聴くこと」「話すこと」「1対1のコミュニケーション」「自問自答」について手段・方法を教えてくれます。
● 本書で述べられていますことで印象に残ったのが、NLPではコミュニケーションを『相手がどう受け取ったかが大切』という言葉です。相手の受け止め方、反応に基づいて対応していくことの必要性を説いています。「相手の反応を確かめながら、伝えたいことを伝え、聞きたいことを聴く」そのとおりだと思います。
● 7冊目はNLP関連で具体的なシーンでコミュニケーションの道具箱を解説してくれる本です。千葉英介著 朝日新書「やる気を引き出す会話のマジック」朝日新聞出版(2009年刊)
● 漫画でいろいろな現象(シーン)を示し、問題点や改善方法を考えるようになっています。勿論著者の解説があります。問題点はココ、改善ポイントはと来て、最後にコラムで該当するNLP理論を解説してくれます。よくできた本だと思います。新書なので手軽です。
● 8冊目はカウセリング専門家である澤村直樹著 出版生活人新書「<聞き上手>の法則」NHK出版(2010年刊)です。副題にあるように目的は人間関係を良くすることです。聞き上手になるための15のコツが具体例で示されています。
● 本文に会話の事例が多く、著者の臨床心理カウンセラーとしての豊富な体験が生かされていると思います。私は15のコツを1~4、5~6、7~10のまとめとして書いていただいている見開き2ページをコピーしていつでも見られるようにしています。
● コミュニケーションは「傾聴」であるというのが著者の主な主張だと思います。意識を相手に向けて、自分をコントロールする手段・方法がとてもわかりやすく理解できる本です。
● 最後に、リチャード・ファースン著 ハヤカワ文庫「パラドックスマネージャーがビジネスを変える」早川書房(2001年刊)をご紹介しましょう。
● いままでの8冊はコミュニケーションとはこういうものですよ、こうすれば上手くいきますよという内容のものでした。個々の主張に違いはあるものの、すべて何らかのメリットを読者に与えようとするものです。読み手はその主張を理解して、実践するとか、真似をすれば良いのです。
● しかし、本に書いてあることは全て正しいとか万人の役に立つとは言えません。私たちに必要な態度は、内容について素直に受容するとともに実践で確認する必要があります。
● その時に上手くいかなかった場合、即ダメだと決め付けるのではなく「なぜだろう」と考える必要があります。そんな時に役に立つのが本書で指摘されているようなことです。これらが頭に入っているだけで、冷静に反省し実践に活かすことができます。
● 少し例をあげますと・・・
①コミュニケーションにはいつも最適レベルというものがあり、それを越えて、あるいはさらに拡大すると、コミュニケーションは機能不全に陥るということである。コミュニケーションにも一定の限界が存在するのだ。
● ちょっとわかりにくいですかね。要は何でも話し合えば良いというのではないということです。参画型のマネジメントがいつも機能を果たすとは限らない、状況によってはトップダウンで命令、実行、報告というスタイルが必要な時があるということですね。
● ②本当に忌憚のないコミュニケーションができ、またそれを行うには、両者のパワーバランスが比較的よくとれていて、お互いの力が平等に近い時のみである。なんとなく分かりますね。
● ③すべてのコミュニケーションにおいて、歌詞も当然のことながらメロディにも耳を傾けることが、すなわち言葉そのものと同時に、言葉の背後にある感情を読み取ることが不可欠なのである。
● 内容だけでなく形式や表現方法が重要だと言っているんですね。
● ④人の話を聴くときに、マネージャーは相手の言わんとすることだけに焦点を絞り、また相手がどう世の中を見ているかに注意を集中させるので、かえって自分の心のありかたが制限されていると感じやすい。うむ・・・。
● ⑤われわれは世の中を一定の方法で見たいという強い要求を持っているので、真剣に人の話を聴くと、他人の見方を理解するようになるために、自分自身の見方の妥当性が問われて変えられてしまいそうだというリスクを冒すことになる。なるほど。
● 同時に、他人の意見に耳を傾けるということは、自分自身の自己防衛機構を自覚し、他人を逆に変えたいという自分の衝動に対しても意識しなければならないことを意味する。
● これには、かなり高い水準での自覚や自己認識や、時として自己批判することまで要求されるので、こうしたことを長く続けるのは並大抵のことではない。
そうかな?・・・ちょっと難しいな、持ち越し。
● 以上9冊のコミュニケーションに関する文献を見てきました。後編ではコミュニケーションスキルに関するものを多く取り上げました。コミュニケーションとは何ぞやと理解するだけでは実践の糧になりません。いかにして行うと効果的なのかをマスターしないと上達しないでしょう。
● ですが、コミュニケーションの定義のところでも述べましたが、何を目的にするのか、これがとても大事です。基本となる目的(プレゼンスと言ってもいいでしょう)、状況によって変わる目的、それをはっきり意識した上で「手段・方法」を選択することです。
● 私は今回の学びで、目的の中に『信頼を築く』ということを取り入れたいと思いました。人生も仕事もお互いに求めるものを達成するということを通じて、信頼を築く積み重ねが必要でしょう。
● また手段・方法はたくさん知っている方が良いですね。どう使うかは状況と目的しだいです。手段・方法には内容と形式・表現方法があること、それは人を動かすのは論理だけでなく感情にも配慮しなければならないためです。
● 何事も無手勝流でやるのではなく、より良い手段・方法を学び、使いこなすことは上手に、効果的に成果をあげることができます。これからビジネスパーソン人生を何十年と続けられる方は、日々実践の中で学びを意識してコミュニケーション能力に磨きをかけてください。
● コミュニケーションは決して他人を自分の思うままに操作する手段・方法ではないのだという自覚をもっておくことが注意点です。
● 尚、今回のコミュニケーション能力についてのコラムは、人と人が顔を合わせた状態を想定しています。今日急速に普及しているパソコンから携帯電話そしてスマートフォンなどデジタル機器を使ってのメール、ブログ、ツイッター、フェイスブックなどの場面でのコミュニケーションについては触れていません。またの機会にさせてください。
次回は「主体性」について考えます。<完>
- 登録日時
- 2012/11/29(木) 15:36