▲ロウバイの花。花言葉は「慈愛」「優しい心」です。失いたくないですね。
【今月読んだ本②】
小説『犯罪者 上・下』で共感した記述から学ぶ<2>
■昨日の続きです。今日は下巻から3つ。まず70Pから
●『「世の中には2種類の人間がいます。有能な人間と、そうでない人間です。有能な人間が社会の仕組みをつくり、経済を動かし、そうでない人間は歯車として単純な労働に従事する。これはいつの時代も変わらない」服部は森村の耳に、森村自身の信じる凡庸な世界観を吹き込み続けた。』
●これは服部という悪党が、森村(専務)という小悪党に、無価値な人間が有能な自分(森村自身がそう思っている)を破滅に追い込もうとしているのだから、殺してもよいと決心させるためのそそのかしのセリフです。
●これは相手が信じている世界観や価値観を強化する方法です。これによってためらいの気持ちを崩し、人を自らの意思で行動に仕向けるようにそそのかすのです。怖いですね。
●そういえば今テレビドラマで毎週火曜夜10時からの仲間由紀恵主演の「サキ」というのはこの手のテーマを扱っていますね。「美しい隣人」での仲間さんがやっていた主人公の前身「網浜サキ」の物語です。心理学を応用して人をそそのかす怖いドラマです。(笑)
●こういうことをする人が現実にも少しは居るんでしょう。私が共感したのはそういうことが「あるある」と思うからです。自分も昨年、殺人ではありませんがそういう人物に出会い騙されそうになった経験があります。気をつけましょうねという警鐘です。
●これを良い方向に使う方法はないのかと考える必要はあります。勉強や仕事に打ち込ませるそそのかし(言葉は悪いでしょうが、私たちの物やサービスの購入は概ね売り手のそそのかしに乗っていることが多いのです。)は研究する価値があると思っています。
■次は157Pから。ある大物政治家とそれを利用してきたある企業の社長の息子との出会いの場面です。どうやらその政治家を敬遠したいようです。
●『「先生、なにか御用でしょうか」、亘は如才ない微笑を浮かべているつもりだが、下に警戒が透けて見えている。
「差し支えなければ、〆の挨拶は戸倉君に代わって貰おうと思うんだがね。彼の話はなかなか評判がいいんだよ」
●亘は青褪めている戸倉にも気づかず、渡りに船とばかりに思わず嬉しそうな顔をした。
「は。礒辺先生がその方がよろしいようであれば、是非」
礒辺が挨拶をしないと判った瞬間の亘の嬉しそうな顔。礒辺はその顔を覚えておくことにした。
●運に恵まれない人間というのは、たいてい自分の気づいていないところで何か原因を作っているものだ。』
●最後の記述に共感しました。私も知らず知らずに、あるいは確信犯的にやらかしてきたと思います。正直すぎるのも考えものです。大人というのは自分の考えをいつも容易に顔や、態度や、言葉に出さない訓練をすることですね。
●ビジネスの世界でも相手によってはこんな風に人を見下し、評価をしている人が居ますね。見下さなくても人間というのは接した相手を何らかの評価の物差しで見るものです。そのことだけでも知っておきましょう。
●できれば運を手放すような真似はしない方が賢明です。
■最後は175Pより。
●『相馬には確信があった。滝川は手足に使う人間の眼前に、手品のように希望という餌を取り出して見せるからだ。通り魔のダミーに使った佐田護にも、工場が倒産し従業員に去られた杉田にしても。滝川が平山に対して具体的にどんな餌を見せたのかは解らない。だが、相馬の知る限り、平山ほど希望に渇いている男はいない。』
●これも滝川という殺し屋が相馬と同じ刑事である、組織からも家庭からもつまはじきにされた平山に対する見解を述懐している場面です。これも相手をそそのかす手段の1つです。
●相手に命令しないで自分の思うように動かすために相手が渇いている「希望」を餌に行動をさせるくだりです。それを相馬という刑事が見抜いている記述ですね。
●ディール・カーネギーの著書「人を動かす」の中に人間関係を改善するためのルールが9つ書かれています。その9つ目には「重要感を与える-誠意を込めて」というのがあります。
●NLP心理学でも「自己重要感」ということが取り上げられ、人は自分を価値ある存在だと思いたい欲求があると伝えています。人間関係を改善するには相手の「自己重要感を満たしてあげる」という方法が効果的だとも言われています。
●普通、私たちは自分が満たされていないと他人にこのことができません。多くの人が自己重要感の不足に渇いている(飢えている)のかもしれません。それだけに、意識してこれができれば人間関係や商談を上手くいく方向に持っていけるでしょう。
●私が先の事例で思い起こしたのがこのことです。平山という刑事はこれが満たされていないため問題児として描かれています。そこを殺し屋に付け込まれ同僚(とは思っていませんが)を危機に陥れようとするのですが、相馬はそれを見抜いていて仕掛けをするというスリリングな展開が待っています。
●平山が滝川からどのような餌を与えられたかは最後に明かされます。それが「希望」だったのかと、私には理解できないことでした。
●因みにD・カーネギーの人間関係改善・強化の9つのルールを参考に記しておきます。
①批判も非難もしない。不平も言わない。
②素直で誠実な評価を与える。
③強い欲求を起こさせる。
④誠実な関心を寄せる。
⑤笑顔で接する。
⑥名前を覚える。
⑦聞き手に回る。
⑧相手の関心を見抜いて話題にする。
⑨重要感を与える-誠意を込めて。
●興味のある方は著書を参照され、実践のポイントを学ばれることです。
●今回は小説「犯罪者」から共感を覚えた場面やセリフを取り上げてそこから学べることを書きました。いかがだったでしょうか?
●世の中はきれいごとだけで成り立っていないことはわかっているつもりです。しかしこの小説では組織では、はみ出し者として扱われる人たちが正義に殉ずる生き方をすることを称賛しています。
●私の取り上げた場面やセリフはそういうものを感じさせるものではありません。正しく生きても損をしないように注意すべきだと思う様なことを取り上げています。ここには書かなかった残りの5つも同じような類のものです。そういうものに反応する私のこころのありようについては専門家ではないのでわかりません。(苦笑です)
●たぶん今までの人生で良かったことより苦しかったことの方が忘れられないからかもしれません。(仲間由紀恵さんの「サキ」もそんなことを言っていましたね。)
●ともあれ上下800ページ余の長編です。少ししつこいかとも感じましたが、女性の作者らしく全ての布石を解明してくれます。そして理不尽さに腹は立ちますが救いようのない物語ではありません。犠牲者は多数出ますが明日への希望をも感じさせてくれる小説でした。
お勧めです。<完>
- 登録日時
- 2013/02/20(水) 11:02