【2013年3月の提案③】
売上アップ法7つの視点 その1:数字面から考える<後篇>
●前回の続きです。「売上アップ法を数字面から考える」の後編をお届けいたします。初めての方はぜひ前篇をお読みのうえ本編をお読みください。
●前篇では「売上高=客数×客単価×購買頻度」というお馴染みの公式をもとに「手段の開発」の必要性をお伝えしてきました。サンプルとして私が作成した「売上アップ対策シート」をアップしておきました。
●理屈はわかっても具体策を考え出す力を身につけないと実務には使えません。それはあなたの仕事場で考え出して、実践し、確かめるしかないのです。サンプルはヒントにはなっても、どのような業種・業態でいつでもどこでも通用するとは限らないからです。
●しかしこのことを知っているだけでも自分の仕事の意味が価値あるものになると信じています。朝から晩まで品出し、陳列作業に追われていても、何が売れていて、何が売れないのか、なぜこの配置で陳列するのか、なぜ本部は陳列変更を指示してきたのか、日曜日に一番売れたのはどういう品目かなどなど、いくらでも問題意識を持つことができます。
●これらをノートに記録するだけで自分に変更の権限がなくても秘かに愉しむことができます。しかもそれがご自身の能力開発につながるのです。その仕事で1人前になる、プロになるという「志(こころざし)」を持てば一見単調な仕事でも興味尽きないものにできます。
●数字で考えることの目的のもうひとつ「要因を探りポイントを掴む」に対する手段は、①基準値と比較して高い、低い、横ばい、少ない、多い、増加中というのを見極め、要因を推測することです。(基準値は社内で設定されたもの)
●私はこのことを故渥美俊一先生の著書「小から大への成長法則」商業界刊(2004年)の368ページの図表を重宝し学びました。(興味のある方はぜひご参照ください)
●基準値との比較以外にも簡単なのは②異常値、③傾向値を見極めることです。その際に基本は量を表わす絶対数値と対比を表わす率の2つに着目しておけば良いでしょう。
●さて売上高=客数×客単価×購買頻度については詳しく掘り下げましたが、残りの視点についていくつかご紹介しておきましょう。これらは紙面の都合上、簡単に触れることにさせていただきます。
●2つ目は【『売上高=需要額×シェア』】です。これは船井総研の小山会長から教わった「数理マーケティング」の中に出てくる考え方です。小山会長には20数年前に当時勤めていた会社でコンサルティングを受けて学びました。
●この考えは現在も船井総研では指導の柱にされているようです。私はその後2001年に発刊された「販売計画の立て方」小山政彦&岩崎剛幸著 日本実業出版を手元に置いて参考にしています。
●当時若手の岩崎さんが主に書かれたと思いますが、彼は現在同社の上席コンサルタントです。私は若いころからいろんな先生に接してきましたので一流になる人とそうでない人を直感的に見分ける力が備わっていたようです。(笑)
●最近の岩崎さんのレポートがダイヤモンドオンラインで読めます。阪急百貨店や新宿伊勢丹のリニューアルについてそのねらいや見どころを解説してくれています。下記のアドレスをクリックしてご覧ください。
http://sys.diamond.jp/r/c.do?p0U_2ymA_8x_vow
●さてこの公式の需要額とは国民1人当たり年間総支出額(マーケットサイズ)に商圏人口を掛けて出します。これを商品別に計算してガイドブックとして船井総研から発売されています。(毎年更新しておられるようです)
●シェアは自社(自店)の売上高をこの商品別の総需要額で割って算出します。シェアに対する考え方は「ランチェスターの法則」に基づいています。自社(自店)のシェアがわかったならそれをどこまで持っていくのかという手段開発はコンサル会社の商品提案ということのようです。
●この考え方にアンチなのが経営コンサルタントの島田陽介先生です。この考えが通用するのはコモディティ商品(生活必需品で消費者が熟知している商品)だけで、先生が提唱するライフスタイル商品によるアソートメント戦略では通用しないということです。
●これは趣味嗜好品にも言えることです。国民1人当たり年間総支出額がマクロの数字のため、限定商圏で商売をするミクロの店舗にとっては商圏人口の人々の趣向が均一では捉えられないからです。
●実際に自分でもやってみましたが、シェア計算が妥当なものと考えられない数字が出る商品がありました。あくまで目安としてとらえるべきでしょう。ただ現在、同社でどのような使い方、進化をとげられているかは解りませんので興味のある方は同社にお確かめください。
●ですがこの考え方を活用して近年ドコモショップの指導向けに私が開発した資料をアップしておきます。例によって【上記の記号をクリック】してください。これは実態把握のためのツールですが、これからいかにして目標設定を行い、それを達成する手段を考えるかは自分で考えねばなりません。
●実態も把握しないでトレンドで目標設定をして、通り一遍の手段を考えるよりも、数字で実態を把握し、競合の動向も調べて推測することから的を得た手段開発をすることが必要です。
●3つ目は【売上高と売場面積の関係の公式】から手段を考える方法です。
売上高は売場面積×坪効率(1坪=3.3㎡当たり売上高)
売上高=売場面積×売上高÷売場面積と表わすことができます。まずこの公式を使えばチェーンストア志向か繁盛店志向かの判断に使えます。
●チェーンストアでは坪当りの売上高の上限を想定して売場面積、在庫高を設定してその範囲内で売上高をコントロールしようとします。それによって店内の作業の量や時間までオーバーワークならないよう設定するのです。
●子供服の西松屋チェーンなどに代表される日本型チェーンストアはこのような考え方で店づくりを行っています。ですから1店当たりの売上高を毎年上昇させるような発想でなく、上限を決めておいてオーバーしそうな商圏にはもう一店出店するというのがチェーンストアの発想です。
●もうひとつの繁盛店志向では売場の位置と商品の関係を検討することができます。限られた売場面積の中で売り上げを伸ばし続けるには、最適な売場配置と在庫投入が課題になります。
●ドンキ・ホーテやヨドバシカメラがこの考え方で店を作っています。坪当たりの在庫高と商品回転率を重視しています。公式で表わすと以下のようになります。
●売上高=売場面積×在庫売価高÷売場面積×売上高÷在庫売価高ですから
売上高=売場面積×坪当り在庫売価×商品回転率となります。
ドンキにしろ、ヨドバシにしてもしょっちゅう売場の位置を変更しているのは、坪当りの売上管理ができていて、それに基づいて最適売場を追求するからでしょう。
●4つ目は【売上高と従業員数の関係公式】です。
売上高=従業員数×売上高÷従業員数です。すなわち1人当たり売上高の追求です。これは1人当たり粗利高に置き換えて管理されることの方が多いかもしれません。
●これが適用されるのは家電量販店などで接客によって高額品の販売が主力になっている業種・業態です。家電量販店でも郊外型の土日売上集中型(約50%)の店と都心繁華街や駅前立地型のカメラ系量販店では販売員の投入数が違います。
●1人当りの売場の守備面積が郊外型では30坪から50坪なのに対して都心型は10坪から15坪までです。人間の働きには限界があります。1人当たりの限界を追求しながら人数を決めていきます。
●但し、販売のすべてを1人で自己完結させる仕事の仕方と、業種業態によっては接客と購入後の対応を分ける販売方法もあります。いずれにせよ人件費の源泉である売上高(粗利高)の目標設定と実績評価を行う小売業では従業員の接客力のレベルアップは必要不可欠です。
●5つ目は【売上高と営業時間の関係】です。売上高=営業時間×売上高÷営業時間です。1時間当たりの売上高は実務的には時間帯別売上高の把握です。これによりパートやアルバイトの時間帯別配置を考えるのが小売業の店長の仕事のひとつです。
●小売業の営業時間は年々長時間営業へとシフトしてきました。先がけはコンビニエンスストアやドンキ・ホーテです。最近ではスーパーマーケットも午後9時、10時閉店が当たり前になってきました。
●以前ドンキの方にお伺いした話では午後11時までのお客様とそれ以降のお客様は人種が全然違うそうです。真夜中に買い物をする人がおられるというのは当時の私には不思議の世界でした。(笑)
●時間帯別の売上管理で先んじているのはコンビニです。セブンイレブンのノウハウは文献で紹介されていますね。時間帯で品揃えを変更する、しかも鮮度を考えてということで様々な工夫がなされてきました。まさにシステム産業の真骨頂です。
●以上5つの視点で『数字で考えるための売上高の公式』を使って説明してきました。繰り返しますがねらいは『要因を探りポイントを掴むこと』『手段の開発と意思決定の物差しづくり』です。目的を押さえて数字面から考えられることを提唱いたします。
●最後に残りの3つは公式だけ記載しておきます。
⑥売上高=労働生産性×従業員数÷粗利益率=必要粗利益高÷粗利益率
⑦売上高=平均人件費×従業員数÷労働分配率×粗利益率=必要総人件費
÷売上人件費率
⑧売上高=使用総資本×使用総資本純利益率÷売上純利益率
●まだまだあるでしょうね。興味の湧かれた方はご自身で学んでください。
但し、コンサルタントになるならともかく、実務家はご自分の仕事に有効なものに絞り込んで活用してください。
●実務に必要な戦略や戦術は自社(店)が置かれている状況下で実態を把握して、重点ポイントをつかんで構築することです。それは実行可能で効果のあるものでなければなりません。
●そのためには、選択と集中が求められます。これがとても難しいのです。いろんな視点で考えるのはくどいようですが、選択肢を広げ目的・目標達成に必要な手段(戦略・戦術)を選択するためです。以降もこの視点をお忘れなくこの連載をお読みください。
●花粉症がひどくてやる気を失っています。(笑)薬を飲めば症状は治まるのですが長続きがしません。コラムも少し滞るかもしれませんがご容赦ください。どこか不具合があると頑張れない弱虫です。(笑)<完>
- 登録日時
- 2013/03/26(火) 10:00