▲水仙の花 :花言葉はうぬぼれ、自己愛、自尊心、気高さ、愛をもう一度
【2014年2月の雑感①】
黒田官兵衛はなぜ秀吉から敬遠されるようになったのか
●今年のNHK大河ドラマの影響から司馬遼太郎さんの「播磨灘物語」についで、岳宏一郎さんの「群雲、賤ヶ岳へ」を読み終わりました。司馬さんの小説では黒田官兵衛の播磨での活躍が書かれており、明智光秀との天王山の戦いでほぼ終わっています。残りの人生は後日談のようにはしょって記されています。
●岳宏一郎さんは天王山の戦いは寸前の記述で終わっており、あとはカットされています。そのかわりその後の柴田勝家との賤ヶ岳の決戦が詳しく書かれています。そして秀吉の死後の関ヶ原の戦いの最中の九州での動きまで記されて終わっています。
●作者が違えば同じ素材がかように違って表現されるのかと感心しています。両作家ともそれぞれの考えにそって含蓄のある言葉を記されています。印象に残ったことは付箋を付けていますので、後日対比しながら紹介をしたいと思っています。
●今回は、岳さんの小説でひときわ印象に残った箇所があったので一足先に紹介をしておきます。自分の人生を振り返って、黒田官兵衛にたとえるのはおこがましいのですが、大なり小なり似たようなことをしたのではないかという反省があるからです。
●以下文庫本393ページの官兵衛のセリフからはじまる数行を再現します。
明智光秀との天王山の戦いを前にした評定の場面でのやりとりです。
●「筑前様にはまだご愁嘆のご様子ですが、ご本心は決してそうではございますまい。めでたい時節が到来したとひそかにお考えでございましょうが」官兵衛は婀娜(あだ)っぽく、上座の秀吉を睨んだ。
●「大バクチ(小説どおりの漢字が出ません)を打とうと仰せ出されたこと、なにより嬉しく拝聴仕りました。由巳(祐筆の大村・・)の申すとおり、吉野の桜は今が真っ盛り。この上は天下分け目のご一戦、しかとご決意あって然るべきかと存じまする」大演説だった。
●秀吉は鋭く顔をしかめ、ついでニヤッと笑った。官兵衛よ、物事には、あくまで心の底に秘めておかねばならぬ事もある、それを弁(わきま)えぬとは、おまえという奴はどうしょうもない男だな、そうした苦いものを含んだ笑いだった。
●秀吉の軍師に対する心証はこれを境に明白にかわった。古記録には「これより秀吉、官兵衛に心をゆるさざりしなり」とある。
●しかし、官兵衛には自分が取り返しのつかない失策を犯したことに、全く気付かなかった。かれには人の心の綾が、すかし絵のように透けて見えたが、自分が相手の目にどう映っているかを察知する能力が、欠落していた。
●自分の頭脳の冴えを自慢したくなったとき、この人物はしばしばこの種の失敗をしでかした。特に、この夜の失言はひどく高いものについた。
引用はここまで、以下略。
●いかがでしょう?この岳さんの秀吉の口を借りた戒めは・・、何事も「過ぎたるは及ばざる」のごとしです。知を誇る人が犯しやすい過ちを表現しています。身に覚えがある方もおられるのではないでしょうか?
●私は反省しています。思い起こせばいくつかの記憶が甦ってきます。詳しくは書きませんが、この場面の記述に出会ったとき、はたと本を置いて記憶をたどったものです。
●いつからか小説の愉しみは、ただ筋書きを追うだけでなく自分が共感する記述を発見した時に、それをもとに自分の人生を振り返り今後の糧を自ら見出すことだと思うようになりました。
●ですから私はビジネス書を読むのと同じように付箋を横に読んでいます。後日それをもとに本欄に書いているように思考のアウトプットをする材料にしています。それが今の私の愉しみになっているのです。
●小説ですから事実はどうであったかはわかりません。おそらく作家が資料を読み込んで想像力を働かせ、自分の考えを盛り込みながら組立て記述をされているのでしょう。
●私は歴史研究家ではないので史実の正誤にあまり興味はありません。ただ自分の生き方に参考になる記述があればそれを活かす事のみを考えています。あとは面白いかどうかが評価における価値基準となります。
●表題の黒田官兵衛が秀吉に敬遠されるようになったのは、官兵衛の戦場における頭脳の冴えに対する嫉妬心とともに、それを部下の前で思うがままに開けかす態度がうっとうしくなったのでしょう。(私の推測です)
●やがて天下人になった秀吉は戦場の軍師より平時の政治に必要な補佐役として、弟の秀長や千利休、石田三成たちの若手官僚を登用していきます。岳さんは小説の中で官兵衛の知略は権謀術数をもとにしており、それが秀吉にとってはだんだん危険を感じ不要になっていったとも記述されています。
●岳さんは官兵衛が「女ごころ」にも疎かったと書いています。それにひきかえ秀吉の言動は雲泥の差があるようです。大河ドラマでは中谷美紀さんが演じる「光(てる)」との夫婦は仲睦まじかったと描くようですが、岳さんの小説では官兵衛の奥方への無頓着さが描かれています。
●それらの数少ない記述からも夫婦間の微妙な距離感が行間から伺えます。
●そんな官兵衛が友人、荒木村重の妻か愛妾かは忘れましたが美貌の「たし」(「だし」という本もあります)という名の女性に対して一方的に恋慕の情を抱くところが可笑しいですね。
●「たし」のほうは官兵衛のことをただの通行人にしか思っていない、「破滅型」の村重のような男に惹かれるという岳さんの見解に、そんなものかもしれないと思いました。(笑)
●大河ドラマではそのあたりをどのように描かれるかも楽しみです。ちなみに「たし」は若手女優の桐谷美玲さんが演じるそうです。たしかに美人で適役かも。<完>
- 登録日時
- 2014/02/02(日) 10:47