▲リフレクティブ(内省する)が成長への要諦であると主張されています。
2009年の神戸大学金井教授との共著「リフレクティブ・マネージャー」光文社新書も読まれるとより理解が深まるでしょう。
【2014年06月の今月読んだ本】
『駆け出しマネージャーの成長論』中原 淳著
●今月(5月末のことですが)は久しぶりに一気にビジネス書を読みました。この本はマネージャー職の方々にお勧めです。必ずや参考になるヒントが得られるでしょう。タイトルは上記のとおりですが、サブタイトルに「7つの挑戦課題を科学する」とあります。著者は東京大学准教授の中原淳氏です。
●中原先生は39歳の若手学者です。私がその存在を知ったのは2006年に刊行された「企業内人材育成入門」の編著者として拝見した時が初めてです。その後2009年に刊行された「ダイアローグ対話する組織、長岡健氏との共著」や同年の「リフレクティブマネージャー、金井壽宏氏との共著」などを読み注目してきました。
●今回の本はおひとりで書かれたものです。内容はかなり実践的でとてもわかりやすく書かれています。しかも新書版(中公新書ラクレ)で880円+税という格安なのもありがたいですね。
●以下、本書の概要をご紹介します。
対象となる読者層は①文字通り「駆け出し(新任)マネージャー
②新任マネージャーをつくり、支援する経営幹部及び人事部のスタッフです。
●本書のねらい(目的)は、駆け出しマネージャーが様々な困難を乗り越えて成果を出せるマネージャーになるための手助けになること。そのために「マネージャーになっていくプロセス」と、そのプロセスをいかに乗り越えれば良いのかを解き明かすことです。
●その具体策を以下の構成でつづられています。第1章から第4章が本書の狙いを実現する具体策です。特に第4章が本書の本論でしょう。第5章は会社の支援策のあり方を提唱されています。第6章では現役のいろんな業界のマネージャーの体験インタビューを座談会形式で行われたものが収録されています。
●以下各章のポイントをご紹介します。
第1章:実務担当者(一般社員)とマネージャーの違いを論じることで、マネージャーとは何かを明らかにしています。既存のマネージャーにとっては【役割の違い】を再認識することができます。
●第2章:現在の日本の企業においてマネージャーになることが難しくなっている5つの背景を述べています。現状の認識ということですね。それを著者は次の5つにまとめておられます。
●①「突然化」②「二重化」➂「多様化」④「煩雑化」⑤「若年化」です。詳細は本書で確認ください。私はこの項目だけでは著者の言わんとすることが想像できませんでした。本書を読んで内容がわかればなるほどと腑に落ちました。
●第3章:新任マネージャー実務担当者からの移行において乗り越えなければならない課題を7つあげています。
その7つとは・・・
①部下育成 ②目標咀嚼(そしゃく) ➂政治交渉 ④多様な人材活用
⑤意思決定 ⑥マインド維持 ⑦プレマネバランス(プレーヤーとマネージャーの略)
●私はこの7つの課題については⑦を除いては内容がほぼ予想できました。しかもとても実践的な課題だなというのが率直な感想です。既存のマネージャーの方々ならこういう整理をされると、ほとんど自分は実践しているとお感じになられるでしょう。(その実践レベルはおいといて・・・)
●第4章:本書の本論部分だと思います。7つの課題について、どのように対処していけば良いかを具体的に書いてくれています。この第4章こそ多くのヒントが得られるでしょう。ぜひ本書を買ってお確かめください。
●第5章:会社や経営陣はいかにマネージャーを支援していけば良いのかを中原先生は熱く提唱されています。人事部の方も必読です。中原先生がフィールドワークとして実践されている研修プログラムも紹介されています。
●東京にお住いの方は中原研究室主催のこのワークショップへ参加されると役に立つのではないでしょうか。参加費は安いと思います。(笑)
●第6章:さまざまな組織で働く4人の現役マネージャーたちの覆面座談会が収録されています。私はこういうのはあまり参考にしません。それより本書を参考に自分の置かれている環境を想定して、自分はこれらの課題の現状を把握して、どのように取り組むかを考えます。
●この本の第4章では、7つの挑戦課題ごとに「マネージャーの皆さんへの問いかけ」が11項目あげられ、それぞれに2~3の具体的な問いで構成されているので30項目近い問いが投げかけられています。
●これは自分で考える際の貴重な問いなので、抜き出してチェックリストにしておけば役に立ちます。本書では課題ごとの番号うちが抜けており校正ミスだと思います。(私は抜き出して作成しました。余白を創って問いに対する自分の考えをまとめるつもりです。)
●ただ個々の問いは私にとっては不満の残るものでした。例えば最初の「効果的な部下育成を為すために①」の最初のQが、マネージャーである皆さんの職場にはどのような部下がいますか?です。これってとても抽象的で、何を把握しようとするのか分かりにくいですね。
●この①の部分は【現状実態把握】ならそのように解説すべきです。そして「どんな部下がいるのか」を把握するには、性別、年齢、性格、行動傾向、価値観、いくつかの能力要素、実務経験と習熟度などの項目で把握することを提示して欲しいですね。
●30項目はある質問のうち、私が首を傾げたものが3割はあります。意味がよくわからない、意図がつかめない、駆け出しマネージャーには難しいと思われるものなど私の主観ですが、意見として提示しておきます。
●もっとも「本を読むということは」、読者にとって1つでも実践の役に立つことがあれば御の字なのですから、重箱の隅をつつくようなことはしなくてもよいのでしょうが・・・。
●大学の先生の本といえども、批判的に読むことも必要と考えるようにしています。素朴な疑問を感じ、それならばそこの部分は「自分で考える」材料にするのもビジネス書を活用する読み方だと思うからです。
●本書の良い点は各章ごとに「まとめ」をつけてくれていることです。これはコピーをしてノートに貼り付ければいつでも内容を振り返ることができます。(これも実践済みです)
●この本で提示された課題は読者によってすべてが必要でない場合もあると思います。また優先順位も考えて取り組む必要があるでしょう。さらにこの本に書かれていない他の課題に気づくこともあると思います。(そうすべきです)
●それぞれが置かれている環境のもとで、壁にぶち当たりながらもできるだけ遠回りしないで優れたマネージャーになるための参考にされたら良いのです。
それが「考えながら仕事をする」ことであり、成長への近道でしょう。
●中原先生の目指す研究とは「アクチュアリティのある研究」がしたいと学者らしい言い回しで述べられています。私はこの言葉の意味が分かりませんでした。
その意味は「今まさに多くの方々が格闘している問題」に取り組むということのようです。その志を体現した一つが本書でしょう。
●人材育成研究と聴き取り調査をもとに、内省(リフレクティブという難しい言い回しをコンセプトにされています。学者ですから・・)行動を促す実践的アドバイスのキャッフレーズどおりの内容になっています。
●新任マネージャーのみならず、既存の方もこれからマネージャーを目指す方にも必ずや多くのヒントが得られると思います。問題意識をお持ちの方には一読をお勧めいたします。そして必ず、ご自分に役に立つヒントを1つでも見つけ出してください。そして実践することです。
●繰り返しますが、それがビジネス書の最適な読み方でしたね。<完>
- 登録日時
- 2014/06/26(木) 11:31