湊かなえさんの『告白』が週間文春ミステリーベスト1に選ばれました。
●11月にご紹介したミステリー小説「告白」湊かなえ著が「週刊文春ミステリー」の国内部門ベスト1に選ばれていました。また「このミステリーがすごい」でも国内部門第4位でした。
●自分が紹介したものがやはりこの分野で権威ある賞をもらわれたと知ると嬉しいものです。こういうのは社会心理学でいうところの「権威効果」のせいでしょう。本当は賞などに関係なく自分の眼で確かめた良いものを推薦するだけで良いわけですが、文学について見識があるわけでもないので、ただ面白いという感情による評価でしかないので、ある種の権威で裏打ちされると安心という心境です。
●しかし、週刊文春12月11日号の記事を読んでも、「なぜ1位なのか」という理由は書かれていません。よく読むと選んだのは全国のミステリー通、書店員が選ぶということで、投票数で決まっているようでした。わずかに6名の方の短いコメントが掲載されているだけで、それも感想レベルでした。こういうものには評価する基準は明らかにされないのか、もともと無いのですかね。
●そういえば年末のお笑い「M1グランプリ」もプロの大御所が審査員ですが、評価は総合得点と短いコメントですから、何を基準に評価をしているのかわからなかったですね。一方アイススケートのほうは、同じコンテスト競技でも細かい評価基準があるようで、それが公開されているようです。
●小説も題材、構成、キャラクターの造形、文章力、などプロの目からみた評価基準というものがあるのなら公開したらどうなのでしょうか?そんなことを言えばエンターテイメントの世界に野暮なことを言うなと笑われるのかもしれませんが。
●私が注目したのは著者「湊かなえ」さんに対するインタビュー記事と顔写真です。週刊文春のあと12月28日には、朝日新聞の朝刊13面に「冬の読書特集」で大きな記事で取り上げられていました。両方の記事によると彼女は広島県の生まれですが、現在は兵庫県淡路島に結婚してお住まいの35歳の方でした。
●まず顔がやさしくて女性らしい、普通の女性(?)に見えます。それなのに怖いことを書く人だなという人間の外観と内面の創作力のギャップに小さな驚きがあります。
●インタビューで「告白」はデビュー作だとおっしゃっています。内容については「殆ど空想です。まず登場人物のキャラクターを考えて、それぞれの履歴書のようなものを作り、その人物に乗り移ったつもりになって一気に書いていきます。ほとんどイタコ状態ですけど、あの感覚がたまりません(笑)」
●「登場人物に救いを与えない結末は、誰にも肩入れせずに書いていったら自然にこうなった、という感じです。まだ自分なりの創作の方法をつかんだ気はしないのですが、作中の人物や出来事が、読者の身近な何かを想起させるような小説を書いていきたいと思います。よろしくご指導下さい」と謙虚に結ばれています。
●朝日新聞の記事のインタビューでも「私は社会に不満や訴えたいことがあるわけじゃなくて、あくまでこういう事件に巻き込まれたら当事者たちはどうなるんだろうってことをキューッと深く考えていくのが好きなだけです」と笑顔で語ったとあります。
●私には湊さんには才能があるとしか思えません。プロの作家としてはまだまだ課題はあるのでしょうが、素人には「面白い」という評価のみです。登場人物に共感を覚えなかったですし、自己を投影することもありません。ただ好奇心がおおいに刺激されました。
●それに「登場人物に乗り移った感覚で書ける」という状態が羨ましく思います。私も過去には、仕事をしていてそういう状態になったことがありました。
今ではなかなかそうはならなくなりました。
●私と同じ兵庫県にお住まいで、大学4年の時に阪神大震災を体験され、何か人の役に立つことをしたいと思われ、アパレルメーカーから海外青年協力隊、非常勤講師を経て作家へ、そして衝撃のデビュー作のベストセラー、応援したい人ですね。
●今月23日には早川書房から長編第2作『少女』がハヤカワ・ミステリーワールド第1弾として刊行される予定です。愉しみです。さらに数冊新刊を出される予定とか、期待の新人に注目!
- 登録日時
- 2009/01/08(木) 20:48