▲スズランの花。花言葉は「幸福が訪れる」「意識しない美しさ」です。神戸
には、鈴蘭台という地名があります。はじめて耳にしたときはなんて美しい名前なんだと思った記憶があります。
【2014年07月のトピックス②】
モーツァルトのオペラ『コジ・ファン・トゥッテ』観劇記
■先週土曜日(26日)に西宮市にある兵庫芸術文化センターにて、佐渡裕芸術監督がプロデュースするモーツァルトのオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」を観てきました。今回はその観劇の様子をお伝えしますので興味のある方のみご笑覧ください。
●佐渡さんのオペラは今回で4回目の観劇です。過去3年は「こうもり」「トスカ」「セビリアの理髪師」と観てきました。本欄でも何回か取り上げてコラムを書いています。
●この劇場はいつも感心するのですが、マーケティング上手というかいろんな仕掛けで集客しています。8日間の公演にも関わらず2000席のホールを連日満員に近く埋め、公演を成功させているようです。
●今年も2月に切符を販売してから、4月にハイライトコンサート、5月、6月にはプレレクチャー、直前にはリハーサルへの無料招待(抽選なのでなかなか当たりません)、前夜祭と少しずつ期待感が盛り上がるように仕掛けています。
●公演8回をニューヨークのメトロポリタン歌劇場出演者を中心としたキャストと、日本人を中心にアジア人キャストのダブルキャストで選択肢を提示しています。観客に選ばせて購入の満足・強化を気づかせずに行っています。
●このダブルキャストも1年おきに外国人キャストを呼んでいるようで、日本人によるダブルキャストの年と交互のようです。そして外国人を呼んだ時の舞台装置や登場人数はコストを抑えておられるようです。
●日本人のみの公演では舞台も華やかで、周りを固めるスタッフの人数も多いようです。コストとパフォーマンスも計算しつくされて準備されているようです。(これは私の観察による推測です)
●今年の「コジ・ファン・トゥッテ」は3時間30分の長丁場の公演ですが、連日の暑さを忘れさせてくれるひと時でした。以下はその内容をかいつまんでご紹介しましょう。
■物語の舞台はイタリアのナポリ。美しい姉妹を婚約者に持つ2人の青年士官がそれぞれの恋人の貞節を試そうと、変装して相手の恋人を口説くというお話です。
●戦地に出征したことにして舞い戻り、変装して2人の姉妹に近づくわけです。2人とも金持ちという設定です。(お金は人を動かすのに影響力のあるものですからね‐笑)
●姉妹は2人とも最初は怒って相手にしません。ところが熱心に口説かれるうちに徐々に心が揺らぎ始めます。妹の方が早く陥落してしまうのですが、それでも姉の方は最後まで良心の呵責にさいなまれます。この心情を歌ったアリアは良かったですね。(日本人キャストの小川里美さんのも聴いてみたかった)
●最後には2人とも陥落、結婚式まであげるということになります。実はこのドラマにはこの誘惑の仕掛けを考え出す2人の青年士官の知人である哲学者とその協力者である姉妹のメイドが登場します。
●2人が狂言回しのようにして話は進んでいくわけです。2人の姉妹が誘惑に負けたことを確かめた時に、この仕掛けの種明かしが行われます。最後はそれぞれの元の恋人と結ばれるという落ちで、ハッピーエンドには終わるわけです。
●ですがこんなことでそれぞれのペアは結婚後もハッピーな人生を送れるのでしょうか?私には理解しがたいお話です。(笑)
サブタイトルに「女はみんなこうしたもの」とあるように、仕掛け人の説(たとえどのような女性でも貞節ではいられない)が証明されたわけです。
●すべての女性がそんなわけはないと思いますが、多くの女性はいくつになっても、心の奥底ではチャンスがあればそうなりたいと思っているかもしれません。相手が金持ちで素敵な男性であればという条件付きだと思うのですが(笑)
●男の生理的な欲求とは違うでしょうがね…。男の場合も人によって差があるようで、江戸時代の11代将軍、徳川家斉のように50数人の女性に子供を産ませたオットセイ将軍のような人もおれば、同時代の老中、松平定信(寛政の改革の推進者)のように女色には淡白な人もいたようですから。
●ちなみに家斉は誰でもよかったわけでなく自分の好みを大切にしたようです。勿論、歳と共にその好みは変わっていったようですが。(笑)ちょっと脱線してしまいました。もとへ。
■このオペラをモーツァルトが作曲したのは死の1年前です。4大オペラの1つとされています。(フィガロの結婚、ドン・ジョバンニ、魔笛、と本作)台本はフィガロとドン・ジョバンニを世に送り出したロレンツォ・ダ・ポンテ氏で、女性問題も起こしたことがある人物のようです。
●モーツァルトと言えば、この作品の主人公フィオレティリージ(姉)とドラベッラ(妹)に実在の人物が投影されているといいます。ドイツのマンハイムで知り合ったウェーバー家の姉アロイシアと妹のコンスタンツェです。
●モーツァルトは姉の方に熱をあげますがあえなく失恋します。のちにウィーンで妹のコンスタンツェと恋仲になり、父親の反対を押し切って結婚します。このコンスタンツェは貞淑とは言いがたかったのか、モーツァルトは結婚後も妻の他の男性への振る舞いにやきもきさせられます。
●このあたりのことはかなり事実のようで、モーツァルトの奥さんは悪妻といわれています。映画「アマデウス」でもこのあたりのことは描かれています。
このような経験からモーツァルトはこのオペラに対する思い入れもあって作曲をしたのではないかと思います。
●作家と作曲者が同じような女性観を持っていたと推測されます。お話は他愛もない内容だと思いますが、流石にモーツァルトの音楽は絶妙です。独特の軽妙さの中に楽しさや悲しみが盛り込まれています。
■私が観劇したのは外国人キャストの千秋楽とあって、出演者も楽しんで演じられていたようです。アドリブもあって時々笑いが場内に出ていました。3時間半があっという間に過ぎました。
●最後のカーテンコールは満員の観客の9割がスタンディング・オベーションで出演者を讃えていました。私も周りにつられて途中から立ち上がり拍手を送りましたが、久しぶりに熱気を感じさせられました。
●オーケストラの演奏会ではあまり見られない光景です。私はこの公演そのものに特別感激はしませんでしたが、観客の熱狂ぶりに感動しました。不思議な気持ちです。一緒になってスタンディング・オベーションをしているうちに「何か素晴らしい舞台を観た」という思いになりました。
●これって新興宗教やナニワ金融道に出てくる熱狂商売(マルチ商法など)の会場に居るのと同じではないかと、物語や音楽、それを賞賛する人々の熱狂ぶりは確実に人に伝染するのだという実感をしました。
●この公演の対象顧客は女性です。7割強は女性客でした。パンフレットはピンク色、舞台や衣装はパステルカラーが中心、女性の心の奥底に潜む心理の肯定をオペラという音楽劇で楽しませてくれるひと時、観客の熱狂ぶりにその満足度は高まったと確信しました。
●佐渡裕氏とそのスタッフは素晴らしいビジネスを展開されていると思います。来年は兵庫芸術文化センター開設10周年です。それに合わせて10周年記念オペラを準備されるでしょう。1月か2月には詳細が発表されると思います。どのような舞台を見せてくれるか今から楽しみです。
<完>
- 登録日時
- 2014/07/29(火) 13:48