▲オミナエシの花(女郎花)、前回のオトコエシと対比して鑑賞してください。
【2014年10月の提案②】
手段(対策)は目的と現状に従う<中篇>
■前回、手段を考えるときは「目的(ねらい)」を明確にしてから行うことが必要だと提唱しました。それは私の小売業の現場経験から、多くの手段が「目的(ねらい)」を曖昧にして実施されていることが多かったからです。
●目的(ねらい)が曖昧だと、何のためにそれを行っているのかが実施した本人にしかわからず、他のメンバーに共有されないからです。複数のスタッフが働く売場では、なぜこのように陳列したのか、このPOP広告のねらいは何かなどが共有されていないと効果的な接客ができません。
●ひいては来店されたお客様に適切な対応ができにくいことになります。特に品ぞろえ型の店では、棚割り(商品と情報の配列)の意味が販売手に共有されていないと、効果的なアドバイスができにくくなります。
●たとえば、なぜ重点販売する商品をここに陳列しているのか、その上下左右に陳列している商品の役割(ねらい)を明確に説明できる担当者は優秀です。その試みの成否は検証することで次の手段を進化させることが可能になるからです。
●この検証ができるか否かが2つ目の理由です。「目的(ねらい)」の有無によって何が良くて、何が拙いのかを検証することが可能になります。ねらいのないものは「売れた、売れなかった」の結果のみでその理由を明らかにするのは難しくなります。
●あるお店で見かけたPOP広告の事例です。「今売れています」とか「大特価コーナー」などの訴求がありましたが、これでは何をねらいにしているかが分かりません。おそらく「人気の商品だからあなたもどうぞ」とか「安いから買ってください」というねらいなのでしょう。
●ですがこのような訴求でそのねらいは達成できるでしょうか?例えばスーパーマーケットやコンビニのように日常よく購入する(高頻度)の低額品(1,000円以下)なら一定の効果を望めるかもしれません。しかし、数千円から1万円以上する商品で購買頻度の低い商品ではその効果は無いに等しいでしょう。
●「今売れています」なら、「どういうお客様像(特定多数)にどういう理由で売れている」のかが無いと共感を得るインパクトに欠けます。合わせてその商品の価値が訴求されていないと、「こういう人に買ってほしい」というねらいは伝わりません。
●「大特価コーナー」もなぜ「大特価なのか」という理由、この商品はどういう対象の人のどのようなニーズに応えるのか、その陳列商品の価値が訴求されない限り、お客様の興味を惹くことは難しいでしょう。
●これらのPOP広告と陳列演出はお客様にとって不親切で、価値の少ないものと評価せざるを得ません。またこの場所の賃料はいくらなのかというコスト意識があれば、このような「目的(ねらい)」が曖昧で効果に乏しい訴求をそのままにしていられないと思います。
●売場を『お客様と商品の出会いを実現し、お客様の満足を実現する価値提案の場所であり、コストを意識し無駄にしないという根本的なねらい』を意識すれば「この手段はこのままで良いのか」という問いを自らに投げかけることになるでしょう。
■もうひとつの効果的な手段を生み出す前提としては、「現状を把握してから考える」というのがあります。
●現状実態をよく把握してから手段(対策)を考えるというのはセオリーなんですが、一方では仮説(こうなんではないかという手段とその理由)から入るという方法があります。
●私は普通の人間は実態を把握してからその重要ポイントを発見し、それから手段(対策)を考える方が効果的であると思っています。セブンイレブンの総帥、鈴木敏文さんが数十年前から「仮説・検証」の重要性を唱えられ、現状実態の把握からだけでは新しいものは生み出せないと提唱されました。
●たしかに、日本型コンビニの開発、商品ではおにぎり、おでん、アイスクリームの導入、PB商品などはセブンが開発してきたもので、現状実態の把握から生み出されたものではありません。多くの新しい商品は「現状の把握・分析」から生み出されたものではなく、開発者の頭脳によるものです。
●それでも多くの人々が働く小売業の現場では、「現状実態の把握から考える」ことの重要性を提唱いたします。それは現在の売り場が多くの仮説で成立しているからです。現状の品ぞろえや売場づくりはある仮説です。そこには何らかのねらい(目的)があるからです。
●それらを「お客様の反応」で確かめるのが検証という仕事のやり方です。お客様の反応を掴むには「来店客層」「売れ行き状態」という実態や「行動観察」、それに「お客様からの質問」などを把握することが必要です。
●それらを掴んでから「次にどのように改善すれば良いか、強化すれば良いか」のポイントを見出すのです。そうすればその対策(手段)は効果的なものになりやすいでしょう。
●そこに今までやっていない新しい手段を付加していくというのが一般的なやり方です。但し、新しいことを付加する場合は「止めること」も決めなければなりません。なぜならリアル店舗はネットと違って、売場面積という限界があるからです。
●新しい店を出店したとしても、最初の品ぞろえ、売場づくり、接客方法、顧客のリピート対策も仮説で行うことになります。ですが、すぐに時間と共に「実態を把握しながら考える」というサイクルに入っていきます。
●次から次へと新しいものを導入するわけにはいきません。一度決めたものをお客様の反応という実態に基づき「考えて対策(手段)を生み出す」のが普通の人の普通の仕事の仕方です。
●最後に私たちは、「自分の都合の良いように実態を見たがる」という特性、「経験に基づく先入観に支配されやすい」という戒めを知るべきです。そして安易な「対策病」に陥らないように心して仕事に取り組んでください。
●次回は後編「効果的な手段を考えるいくつかの視点」について述べます。
<完>
- 登録日時
- 2014/10/17(金) 11:46