私が選んだ09年2月のトピックス 鈴木敏文氏の終わりなき改革
■2月3日(火)の新聞でセブン&アイ・ホールディングスが傘下の「そごう心斎橋本店(大阪市)」を売却する方針を明らかにしたと報じられました。売却先としてJフロントリテイリングの名前があがっています。同時に同じく傘下に持つ西武百貨店の札幌、旭川両店を閉鎖する方針を固めたとあります。
■セブン&アイは西武とそごうが03年に統合したミレニアムリテイリングを06年に24億で買収したが、イトーヨーカ堂などグループ会社との相乗効果をうまくうち出せず業績低迷が続いていた。
■グループ連携に消極的な経営陣を昨秋に刷新し、ミレニアム、そごう、西武の3社の合併を決めるなど、百貨店事業の抜本的改革を急いでいたとあります。
■時を同じくして「日経ビジネス誌」2月2日号にて「鈴木敏文会長最後の大仕事『セブン&アイの破壊』という記事が特集されています。詳細は本誌をお読みいただくとして、筆者が気になったポイントをあげておきます。
■2009年2月期のセブン&ホールディングスは過去最高益を見込むまで成長したが、鈴木会長は社内に澱みのようにたまった成功体験や前例主義という過去の破壊。コンビニエンスストア業界に根強い成長限界の破壊。そしてグループの英知結集の妨げとなるセクショナリズムの破壊。「過去を捨てて、挑戦せよ」と大号令をかけて挑む。
■①100年に一度の危機といわれているが、グループにも転換しなければならないときが訪れている。私は(鈴木会長)昨年あたりからずっと言ってきたが、今回の危機でそれを加速させる必要に迫られた。
■②転換(チェンジ)にはパワーが必要である。無理にでも変えさせなければ動かないこともある。
■③ヨーカ堂の古い駅前の不振店の再生に取り組んだ。ホームセンターは今までは郊外型立地が殆どだが、これからは都心駅前などの立地でも消費者は求めていると判断し、セブンホームセンターとして業態転換した。(08年11月28日1号店の開店)
■プロジェクトメンバーはホームセンター経験者を入れず、競合や商圏をくまなく歩き回り単なる節約志向に応える以外の必需品が見えてきたという。例えばかつて衣料品売場だったところにはもう一度“服”を大量に陳列した。但し、犬の散歩をしている住民が多いことに着目した犬の外出着である。
■さらにペットを良く調べると犬より猫の方が多い。そこでキャットフードを充実させた。また近隣に事務所や商店が多いのにオフィス用品店が少ないことから品揃えを充実させていたが、いずれも功を奏して売れている。
■④同じくヨーカ堂の不振店を社内の抵抗を押し切ってディスカウントストア「ザ・プライス」として開業した。特長は生鮮食品に力を入れ、鮮度にこだわったこと。勿論価格の安さは絶対条件なので意識的に規格外の商品を仕入れる。こちらもプロジェクトリーダーはディスカウントストアの未経験者である。
■⑤セブンイレブンの限界は「御用聞き」と「地方分権」で打破しようとしている。特に地方分権のポイントは「ご当地商品」の開発である。消費は地域ごとで違う。だから画一化された店ではなく「個店主義」だという鈴木会長の哲学の実践である。
■⑥セブンイレブンの基本4原則は「品揃え、鮮度管理、クレンリネス、フレンドリー」だが、フレンドリーが一番重視されている。その結果が「御用聞き」に現れている。
■⑦セブンイレブンの門外不出のノウハウをグループ企業に公開した。また百貨店のバイヤーが地方のスーパー(ヨークベニマル)に学び始めた。また百貨店の接客による顧客の変化と情報をグループにフィードバックするようになった。セクショナリズムの破壊である。
■⑧セブンイレブンのノウハウはプライベートブランド「セブンプレミアム」の開発に反映されている。消費者調査の手法、対象商品や食材に強い仕入れ先メーカーの情報、需要予測や販売計画の立案、物流…など22ヶ月で800品目を開発し、年間売上高1,800億を見込めるまで成長した。
■鈴木会長は「消費者の欲求は無限」というメッセージで社内に漂う手詰まり感を破壊しようとしていると、そしてグループ各社の危機感を利用して組織の壁を破壊し、ノウハウの共有をはかり、「変化に対応し続けられる組織」へのステップアップを最後の大仕事として取り組んでいるとあります。
■100年に1度といわれ大不況は始まったばかりです。各企業の減益予想と人員のリストラが報じられるなかで、日経ビジネスのこの記事は素晴らしいことです。不況になったことをチャンスに捉え、それを梃子に改革を加速させようとする鈴木会長は偉大な経営者だと思います。
■いまあわてて対策を打っている企業ではありません。25年も前から取り組んできた「変化に対応し続けられる組織」への改革を加速させ、ステップアップしようというのです。ノウハウは蓄積できても人間の意識、情熱、行動は人が代われば変わるものです。鈴木会長はそれを「組織の体質」として創り上げようとされています。新聞記事の百貨店事業のリストラの背景に学ぶべき教材が日経ビジネスの特集にありました。
- 登録日時
- 2009/02/07(土) 09:52