▲昨日に引き続きコスモスの花です。
【2016年10月の読んだ本】
『後妻業』と『戦争と人間<運命の序曲>第一部』
■黒川博行氏の小説『後妻業』(文春文庫)を読みました。8月ごろに買ったのですが積読でした。野球中継も終わり時間ができたので読書の秋を決め込みました。黒川作品は初めてです。残された人生でできる限り今まで読んでいない作家のモノをと心がけています。
●感想は実に面白い。1週間はかかったでしょうが私のペースでは早い方です。
題材は2~3年前にマスコミを賑わした年寄りの男性をたぶらかして遺産を巻き上げ殺してしまう60代の女性の悪徳行状記です。
●この本を読めばその手口が分かります。人間の寂しさに付け込んだもので、私からすれば騙される方がいかんとしか言いようがないですね。人間社会で生き抜くには「清濁を併せのむ」ことが必要ですが、身の危険には敏感であるべきです。依存症と色欲と金銭欲が絡むと危険が迫ります。(笑)
●大阪、神戸が舞台なので知った地名が出てくるのと、全編にわたって関西弁の会話はすっと頭に入ってきます。読みやすくて面白い小説でした。読後は即古本屋さんへ持って行きました。(残す価値はないのと新しいと販売価格の20%で引き取ってくれるからです‐笑)
●この本を原作とした映画「後妻業の女」が8月末に公開されました。大竹しのぶさん主演、豊川悦司さんが助演です。これはDVDの発売が愉しみです。無論レンタルでしか見ませんが。
●そういえばもう一冊、レンタルDVDを見てから古本屋で買った『罪の余白』(角川文庫)芦沢 央著(あしざわ よう)さんの本を読みました。この方も初めてでした。これは映画の方が面白かったですね。心理学のうんちくが使われています。
■そしてついに五味川純平著の『戦争と人間(全18巻)』に4回目の挑戦を始めました。船戸与一氏の『満州国演義』を読み終えた余韻が残っています。それにBSテレビで満州国の元帥に祭り上げられたラストエンペラー「溥儀」の人生をドキュメントした番組を観て読んでみようという気になりました。
●手元には文庫本(光文社版)9巻とボックスカバー入りの豪華本(三一書房版)9巻があります。最初の三一新書版18巻は随分と前に手放してしまいました。いずれも初版本でしたので惜しいことをしました。
●本格的に読むのは10年以上ぶりだと思います。読み始めて最初の1巻で引き込まれてしまいました。素晴らしい!船戸作品にはない小説らしさというか、人間の内面描写が実に上手いと思いました。
●第1巻でまだ子供である主人公4名の人物描写が見事です。特に梅谷邦という8歳の少女の境遇と人間性の描写には久々に目が潤んでしまいました。男子2名女子2名の子供たちは物語の初めである昭和3年には8歳から13歳ぐらいです。
●終戦(敗戦)までの17年間が戦争と共に生きた主人公たちの青春の舞台です。満州国は13年の命でした。本書はそこで生き抜き、死んでいった若者に対するレクイエムであり、そのような事態を悪化させた大人たちへの弾劾の物語でもあります。(このあたりが左翼思想と言われるゆえんでしょうか?)
●群像劇ですから大人たちの描写も多々あります。特に男性の女性に対する心理描写は五味川さんが男性だからでしょうからか、共感するものが多々あります。
女性からすると違和感を持たれるかもしれません。(後半に行くほど性愛描写が激しくなります)
●五味川さんはこの作品前に有名な『人間の条件全6巻』を書かれています。(現在は岩波文庫で上・中・下の3巻で発売中)復員後10年をかけて書き上げた小説で当時、大ベストセラーになりました。
●私はこの本も3種類購入して3度読みました。ですが人間の条件は映画の方が優れているように思えます。その人間の条件を書かれたのち、五味川さんは『戦争と人間』を執筆する動機ときっかけを本書の感傷的前書きの中で述べられています。
●解説の武蔵野次郎氏の解説文から抜粋します。
「私は戦争が人間に教えた歎きと怒りは、その一断面を『人間の条件』で書きえたかもしれない。けれども、戦争と人間の、多様な、重層的な、錯綜した、いのちがけの、しかも時にはきわめて無意味な諸関係には、ほとんど筆が及ばなかったことを自覚せずにはいられなくなった…」云々と述べ、本編を執筆されるに至った経緯について語っている(以下略)」
●やはり満州で生まれ育ち、あの戦争に召集され、ソ満国境での戦闘体験で九死に一生を得た著者ならではの思いと言わずにはいられない気迫が伝わってきます。そして巻が進むほどに昭和天皇の戦争責任を追及する記述は本書が再版されない理由のひとつではないかと思われます。
●三一書房は倒産しましたから光文社さん文庫の再版をお願いします。『戦争と人間』は映画より小説の方が断然優れていると思うのです。DVDやBDは発売されているのに原作が絶版とは残念極まりないですね。
●私にとっては人生最後の挑戦になりますが、4度目の読破を9か月かけてじっくり味わいたいと思います。付箋を付ける箇所が以前と違うのも愉しみのひとつです。<完>
■今日、10月18日(火)はとても暑いですね。体調に大きな変化はありませんが、排泄障害と転移が気にはなります。特に排泄障害は日々のことなのでどうすれば回復するのかと考えてしまいます。
- 登録日時
- 2016/10/18(火) 13:54