【09年6月の提案】
『魅力ある店(売場)づくりに挑戦する』
■筆者がアドバイスする機会が多い携帯電話ショップの店長さん向けに話している内容をお伝えいたします。事例は携帯電話ショップを想定していますが、他の小売店の店長さんにも役立つことはあるでしょう。
●まず目的は何かを考えましょう
■あなたのお店はどのような目的をもって運営されていますか?とお尋ねすることがあります。仕事というのは与えられたものを精一杯、誠実にこなすという側面があります。しかし、できれば自分なりに「目的」を持って挑戦していく方がやりがいにつながり、ご自身の能力の向上に役立つと考えるからです。
■皆さんからのご返事を要約すると、多くの場合「地域のお客様に気軽にご来店していただき、ご相談をいただいて購入していただき、また来ようと思っていただける店にしたい」という内容になります。
■もっと集約すると『地域のお客様に買い続けていただく店』にするということでしょう。これはどのような業種・業態のお店であっても普遍的な内容ですね。課題はこれをどのように具体的に実現し、成長発展させていくかということです。
■私はこの目的を確認したあとは、そこへ到達する目標設定と手段を課題として具体化することを提案しています。そのポイントは「利益をあげる」という側面と「お客様に魅力と評価していただける価値を創る」ということです。
■利益は商売存続の手段だから重要なのは店舗がいかに社会に貢献するかという目的と価値(手段)であるという意見もありますが、私は一緒に考えるべきだと提案いたします。利益を出すという視点のないビジネスはありえないからです。
■それを前提にするから理想に対して一足飛びにはいけないのです。一歩一歩小さな目標と課題の設定を行い、現状の力に応じた努力の積み重ねを行う必要があるわけです。そして他からの脅威に対応しながらも生き抜く意思と力が求められるのです。
●言葉の意味を具体化すると
■では魅力ある価値を創るためにはどのような視点で考えればよいのでしょうか。その前に「魅力」とは何かを定義づけしておきましょう。魅力とは「お客様を惹きつけるお店が提供できる価値」としています。そして私は次の3つの価値創造を提案いたします。それは・・・
■①お店が選ばれる買物価値 ②お客様が商品やサービスを使って得られる使用価値(所有、活用も含みます)③お客様が直接負担される経済的価値です。これらの3つを称して「魅力を形成する三位一体の価値創造」と言っています。
●具体的な手段はどのようにして考えるべきか
■これらはバラバラに考えるのではなく、ある特定の多数いらっしゃるお客様を想定して、お客様の立場になって購入という観点からストーリーで考えることが必要です。(後述)
■お客様はこれらの価値のうち①と③は購入時点に重視され、②は購入前と購入後に重視されます。これもお客様の立場で考えると、人は時間軸で生きているのだと捉えればわかりやすいと思います。もうひとつ空間軸の中で生きていることも知っていれば、様々な生活場面や利用シーンを想定することが可能です。
■お客様の立場で考えよと言った時に、人は「時間」と「空間」のなかで生きているのだとか、「理性」と「感情」というこころを持つ存在だと認識して「好奇心、依存心、打算心」をもつ存在だと規定することで様々な具体的なアイデアが浮かびやすくなります。
■まず購入前のお客様はどのようにして「買い気」が起こるのだろうかと考えまてみましょう。それは情報によって刺激を受けるからです。欲しいとか必要だというのは欲望の刺激によって引き起こされます。売り手はあらゆる手段で日々情報を発信しています。それに影響を受けて、経済的な裏づけがあったときに多くの人々は「買い気」を顕在化させます。
■ここでの役割はメーカーやキャリアが果たすウェイトが大きくなります。TV-CMや新聞広告、カタログなどで使用価値を訴求して必要性を喚起します。このことは店頭でも必要です。その場合は売場づくりで行うものは限られます。販売スタッフが接客でヒアリングしながら提案していくことになります。その場合、言葉のみに頼らず「利用シーンファイル集」などを制作されることをおすすめします。
■次に購入手段の選択がはじまります。店舗か、ネットか、通販(テレビや雑誌など)という選択肢があります。
お店の場合は、なぜわざわざ自分の店にご来店いただけるのだろうかという
理由を考えればよいわけです。この時に選択の基準になるのが買物価値です。
■そしてお客様が買って帰られた後に、ご購入の商品を使って満足を確認され、強化されるのに必要な手助けは何か、それはどのようにして実現可能かを考えます。例えば、お店のホームページには「買う前のお客様のための情報」ばかりではなく「買った後のお客様の満足の強化のための情報」を掲載してあげれば良いわけです。内容は「目的別の使い方」の助言でしょう。
●お客様という表現では対象がイメージしにくい
■ここまでお客様という表現で説明してきましたが、これでは具体的な価値づくりがしにくくなります。商売はもともと個人対応です。販売スタッフによる接客とはこの個客対応をするために行っています。携帯電話ショップでは優れた接客応対が店の魅力ある価値づくりのひとつであることは言うまでもありません。
■ところが販売する商品は個客一人ひとりの要望を受けて創ったものではありません。(オーダーメイドはそうですが)多くの共通するお客様を想定して創られています。同じように店舗づくりは、立地や規模、施設としてのデザインや機能は売り手の判断で決めています。勿論様々な調査や思考を経てお客様の立場も考えて決めておられるのでしょうが・・・。
■お店にご来店いただきたいお客様を共通する状態の方々と捉えて、特定多数に分類すると価値づくりの手段は考えやすくなります。例えば携帯電話ショップでは「○○○をしたい状態の人」ととらえることをお勧めしています。また仕事でよく使うので片手で操作ができてセキュリティに安心を望んでいる人、家族や友人ともっと愉しいメールを創りたい人、散歩をしながら音楽を楽しみ健康管理にも活かしたい人、離れて暮らす両親のことが心配な方、夜に塾に通う子供の安全が気になるご両親などと分類します。
■他にも性別と年齢、初心者からマニアという習熟度などいくつかの視点でとらえることで魅力ある価値づくりの切り口が見えてきます。このように現在来店されているお客様への観察と情報収集から、自分たちがお客様をどのように捉えるかで現在のお店の価値の魅力の評価がしやすくなります。そしてその結果さらに強化すべきもの、不足しているために付け加えるものがわかるでしょう。
●買物価値を考え、創り出すのがお店の役割
■3つの価値のうちお店が最も力を注がねばならないのは「買物価値」づくりです。買物価値とは、売り手からみると提供価値です。具体的には・・・
①立地の利便性、規模と構造、駐車場などを含めた設備空間の便利&快適性。
②品揃えと個々の商品の価値を編集・翻訳して伝えること。
③陳列什器と陳列方法、待合い、カウンター、テーブルなどの機能がもたら
す「買いやすさ」「快適性」でしょう。
④時間が多くかからない。スピーディな対応をしてくれること。
⑤常に最新の商品と情報が優先される「新鮮さ」などです。
■立地や設備は出店時に枠組みができてしまいます。何年かに1度の改装を行う時に変更は可能ですが普段は手直し程度です。ですから出店や改装はとても重要な機会なのです。
■品揃えという編集と個々の商品の価値を翻訳して伝えるというのも重要な買物価値です。携帯電話ショップでは新旧の機種が混在する状況が結構長く続きます。これをどのように編集してお客様に提供するかというのは魅力ある価値づくりに欠かせない要素です。
■また個々の機種の持つ「機能」と「性能」をお客様にとってのメリットに翻訳する力も必要となります。コンビニやスーパーでよく知っている日用品を購入するのとは違うのがハードグッズの特長です。自動車やパソコン、家電商品と共通する特長があります。「機能」「性能」だけでなく「使い方」や「デザイン」「色」などがお客様の選択基準となるからです。
■「買いやすさ」という目的を具体化すると「見やすく、手に取りやすく、わかりやすく、選びやすく、決めやすい」という5つの「易さ」に分けられます。それを想定した対象の特定多数のお客様に対してどのようにするかと考えるとさらに具体策が出てきます。
■「快適性」も同じように考えます。買いやすさは人間の「理性」を中心に考える方が良いのですが、快適性は「感情面」を重視して考えます。人間が気分良くなるには、空調や設備、BGM、働いている人たちの格好良さ、活気などという外からの刺激となる面と、自分を公平に扱ってくれる、よく話を聞いてくれる、自分のために考えてくれている、特別扱いをしてくれるという人的な個別対応に左右されます。
■ここでは人間のコミュニケーション能力が問われます。内容面の論理性と人の感情に配慮する共感性の両方が求められるからです。用件を確認して対応するだけではなく、要望や欲求を引き出して先手を打って応えていくことで魅力ある価値となるからです。
■スピードについては携帯電話ショップの大きな課題です。繁盛する店ほど手続きでお客様を待たせることになります。2から3年に1度の買物だから許容されるかもしれませんが、簡単な手続きも待たされるのはお客様にとっては嫌になるでしょう。ネットを使えば良いのですが、多くの機会があるネット購入商品と違うところにネットへの手続きを面倒に思わせている可能性があります。
●経済的価値をどのように創るか
■経済的価値には①プライスカードでわかる価格 ②実際に支払う価格 ③支払い方法 ④損得感情(打算心)に影響する特典、値引きなどがあります。
■価格については「わかりやすい」表示が求められます。他の商品ではあまり問題はないのでしょうが、携帯電話はわかりにくいところがあります。プライスカードが付いているから大丈夫ではなく、購入の選択肢と、いったいいくらで購入できるのかが簡単にわかる方法の研究が必要でしょう。
■価格決定権が店にあるのか、一次代理店なのかメーカーやキャリア(通信業者)にあるのかによって操作する範囲が限定されます。携帯電話は総務省の指導で販売価格については安定したかに見えますが、「0円」が幅を効かすようでは価格に対する不信感はぬぐえないでしょう。
■価格が安い売れ残りを安くするというのは公取の「セブンイレブン問題」のもうひとつの視点で見た時の、「発注能力の向上」を阻害することにもなりかねません。売れ残りが発生しないような予測と調達の仕組みが求められます。
■食品と違ってお客様の中には新古品でも安ければ良いという方々も多くおられるのは事実です。しかし、社会全体の生産性からみると無駄な生産は行わないように努力するのが売り手側の仕事です。それが販売店の魅力のひとつでもある「新鮮さ」という価値につながるからです。
●以上「魅力ある店づくりへ挑戦」することについて「利益と価値づくり」の2つの目標を両輪として捉え、「魅力を形成する三位一体の価値創造」という観点でご提案をいたしました。ここでは具体策は殆ど述べておりませんが、具体策を開発するヒントにはなると思います。ぜひチャレンジしてみて下さい。
<完>
- 登録日時
- 2009/06/07(日) 18:04