【研修参考資料】:部門経営者のための「仕事ができる人になるための習慣」
■ドラッカー教授の『経営者の条件』を素材にして導き出す
このまとめは経営コンサルタントの吉田繁治氏がピーター・ドラッカー教授の古典的名著である「経営者の条件」をベースに著述されたメルマガを要約したものです。
要約の文責は私、鶴崎にあります。
■ドラッカーは経営という仕事を通じた、経営者の成果への貢献を3つに集約
しています。以下の 3 項が、ドラッカーの言う「成果」の基本内容です。
①直接の成果をあげること。これは「利益」のことです。
②価値の創造と価値の再定義。これは「商品づくり」のことです。
③明日のための人材の育成。これは「人材づくり」のことです。
■ドラッカーは「エグゼクティブ」という言葉を使っています。日本語の経営
者とはニュアンスが違います。その意味を機能として整理すれば…
・成果を上げることができるようにルールと作業方法を決定し、
・人のそれぞれの強み(=技術)を生かすように配置(=組織化)をして
・実行を、時間軸で計画し、
・最終成果との比較で、進捗度合いの管理を行い、
・途中で必ず生じる予期せざる障害の解決をし、
・成果をあげるために他人を導く人です。
以上のマネジメントの機能を実行(執行)するのがエグゼクティブです。
■ドラッカーは「エグゼクティブ」や管理職を含めて「知識労働者」という言葉を使い、その人々が成果をあげるには5つのことを『自分の習慣にする能力』が必要であると言っています。
【習慣】:習慣は、後天的に(意識的に)習得し、比較的に固定していて、少ない努力で反復できる行動様式。(広辞苑の定義)
◎吉田氏はこの5つを以下のように解釈し、解説をしてくれています。
①常に自分が何に多くの時間をとられているかを知ること。(時間管理)
②常に自分以外の外部に役に立つことに焦点をあてること。
③常に自分ができること、すなわち強みの上に仕事を組み上げること。
④常に自分の能力のうち、優れたものが何かを知り、その領域で成果を上げることに集中すること。
⑤常に成果に焦点を当てて意思決定をすること。
◎私はこれを手帳に書いて常に携行していました。5 項目は暗記しています。
■【習慣①】何に多くの時間をとられているかを知ること。
観察してみると、成果を上げる人は、自分の仕事の「計画」から物事を始めていなかった。自分が使える時間から出発していた。自分が、何に多くの時間を使っているかを知ることから始めていた。
ドラッカーは自分の時間の解剖のために以下の3ステップを提唱しています。
①まず、何に時間を使っているかを記録する。
②次に、時間をやりくりする。(行動の種類で分類することかと思う:筆者)
③そして、時間をまとめて集める。
これをすることで、多くの知識労働者は掛けた時間の2/3 は成果に対して有効でないことに気づくはずだ。時間は有限でありコストです。有効な時間が 1/3 なら 3 倍のコストを掛けていることになります。
成果に向かっての有効な時間の使い方は、新たな知識を導入することや、マネジメントのプロセスに介入することです。
仕事では、
①何を行うことが成果に向かって正しいかを決めること。(WHAT)
②その意味を理解せしめること。(WHY)
③どう行うことが正しいかを決めること。(HOW)
④実行の過程を管理すること。(PLAN、DO、CHECK、ACTHION)
⑤実行のプロセスで生じる障害を解決することが必要です。
この5つが連動して初めて、組織の行動が変わり、行動が変化した結果として成果の数値も変わります。
■ 部下やチームの行動を変えねば成果は出ない。そのためにはそこに多くの時 間を使わなければならないのです。
計画、方向付け、そして仕事ぶりについて、部下と 15 分で話せると思っている者は、自己欺瞞を犯している。重要なことについて相手に解らせ行動を変えたいとすれば、最低 1 時間、多くの場合はそれ以上の(1 対1の双方向のコミュニケーション)の時間を必要とします。
多くの時間は「なぜ変えなければならないのか?」「成果を生む方法はこれでいいのか?」という WHY(なぜ)と HOW(どういう方法で)を、部下やチームに対して使わねばなりません。
ドラッカーは
人は常に、仕事についてはベストな人材ではなく、最高でも及第点であるに過ぎないと明察しています。
ところがマネジメントでは、短い時間で部下やチームにアイデアを提供すれば即解釈し、実行できるという錯覚に陥ってしまいます。
自分が指示を受ける部下だったとき、指示の理解に悩んだこと、あるいは理不尽に思ったことを、マネージャーの立場になるとすっかり忘れます。これがマネージャーの自己欺瞞です。
人は取り換えれば、機械を新しくしたように、即日に働きが変わるということは決してありません。指示やアイデアは、その方法と手順が、十分すぎるくらい理解されねば実行されることはない。コミュニケーション不足が原因で実行の不足が生まれるからです。
■ 何に時間を使ったかを実際に記録し、本当の内容を知ったあとは時間を集めることです。
そのためには、以下の2つの問いを自分に向かって発することが必要だとドラッカーは言います。
①する必要のない仕事を排除する。
②他の人でも十分にやれることは何かを考える。
■ する必要のない仕事や活動をどうやって見つけるか。自分が行っている
「全ての活動」に対し、以下の問いかけをする。
それをしなかったら、何が起こるかを想定する。(短期及び長期で)何も起こらなければ、結論は直ちにやめることである。
■ 他の人でも十分にやれることは何かを考える。
仕事を任せるということです。その場合、権限と責任は一対のものです。原理的に言えば、責任があるからその責任の範囲で、自己決定ができる権限がある。その意味でいえば、権限の委譲ではなく、「責任の委譲」です。責任を果たせるような方法と手順を与え、その後に自己決定ができる権限を委譲する。これが委譲の正当な順序です。
■ 仕事が委譲できないのは「本来、自分が行うべきことを見つけて仕事をしていないから、過去からの自分の仕事を、今も慣習的に行い続ける」という理由です。
マネージャーの仕事の成果は、チームの成果を向上させることです。そしてチームの成果を上げるため、部下を成功に導くための方法を与えることです。3 番目には、発生した問題の解決です。
■【習慣②】自分以外の外部に役立つことに焦点をあてること。
成果をあげるエグゼクティブは「貢献」に焦点を当てる。自分の仕事から目を上げて目標を見上げるとドラッカーは言います。
仕事は、外部の顧客、そして組織の中の他者や組織への貢献だと定義します。自分の仕事を果たせばいいという姿勢と方法は、組織の仕事として「必要な条件」であっても「十分な条件」ではない。
自分がどういう仕事を行えば、何を行えば「組織の業績に貢献できるか」ということを中心に据えねば、仕事は十分なものにならない。
成果への貢献は「業績の向上」です。組織においては「努力」と「成果」の価値は等しくありません。実行の努力は手段であって、目的は成果をあげることです。
■ 責任のプロセス
賃金をもらう仕事においての責任は「コミットメント」→「レスポンシビリテ
ィ」→「アカウンタビリティ」のプロセスとして捉えなければなりません。
コミットメント:成果目標に対し、実行(達成すること)を契約すること。
レスポンシビリティ:実行計画を立て仕事の手順を決め、実行すること。
アカウンタビリティ:実行した結果の報告と反省の義務
報告=計画と実行結果の差異と、差異が生じた原因(要因)を言葉と数字で説明することを言う。
反省=原因(要因)の把握と対策を立案することを言う。
条件①成果目標に合意できないときは、対案を出す義務がある。
条件②原因(要因)の把握と対策の立案・実行こそが「責任をとる」ことの意味である。責任をとることは、辞めることではない。
■【習慣③】自分ができること、すなわち強みの上に仕事を組み上げること。
エグゼクティブに求められる成果の3つの領域は冒頭に述べました。この成果への貢献の重点は人によって異なりますが、大切なことは「自分の強みとすることで貢献」しなければならないということです。
成果を上げるエグゼクティブは、人の強みを活かし、生産的なものにする。彼は、人の弱みに焦点を当て、弱みによって組織を組み上げてはならないことを知っている。成果を生むには、同僚の強み、上司の強み、そして自分自身の強みを使わねばならない。ドラッカーはさらに、大きな強みを持つ人間は、ほとんど大きな弱みを持つ。
山が高ければ、谷も深い。あらゆる領域で強みを持つ人は居ない。
過去の仕事で成功し、今は権限をもつ立場にある人が、しばしば陥る誤りは、
部下よりあらゆる面で、自分が優れていると思ってしまうことです。
■ 部下は限られた権限の範囲で仕事をしていますので手段に制約条件があります。他方、権限を与えられた立場にある人は、より大きな裁量権を持ちます。それだけ成果への責任も大きくなります。ここで、権限が与える選択の範囲の広さと手段の多さと使える予算を、自分の問題解決能力と勘違いしてしまいます。
■ 原因はどこにあるか?
部下の強みを発見し、引き出す能力がないことです。自分自身については、強みと弱みは裏腹だと認識していながら、他人については弱みから見てしまい、折角の強みを消してしまいます。
人を評価するとき、できないことに焦点を当て、出来ることを見ないエグゼクティブは、人の弱みに着目し、(強みを活かすのではなく)弱みを避けるための人員配置をする。こうした傾向をもつエグゼクティブは、彼自身が弱い人間である。そのため強みを持つ人間に(内心では)自分の地位を脅かす脅威を感じているのかもしれない。
こうした上司の共通の傾向は、部下は自分に忠誠を誓い、自分を喜ばせるために仕事をすべきだと暗黙に考えています。
勿論、そうしたことを言葉で表明はしない。しかし人事の権限を持つときは、自分に忠実な人を登用します。
ドラッカーは、成果を上げるエグゼクティブは、部下が自分を喜ばせるためではなく、(仕事を通じて)成果を上げることによって給料が支払われていることを認識していると喝破しています。
また人を活かすには、何ができないかから考えるのではなく、何がよくできるのかから考えねばならないとも言います。組織の成果を達成するには、人の強みを組み合わせる人員配置によって決まります。われわれの大部分は独力で成果を上げられるだけの強みを持っていないと認識すべきです。
■ しかし、品性と誠実さは例外
人間性や品性と、誠実や首尾一貫についてドラッカーは興味深いことを言っています。
品性と誠実さだけでは、何の成果も上げることはできない。しかし(能力があっても)品性と誠実さが欠けていれば、他の能力のすべてが台無しになる。従って、人間性と誠実さに係わる欠陥は、仕事上の能力や強みの制約条件であるだけではない。それらの欠陥は、弱みということではなく、人を(職業から)失格させる。
人間性、品性、誠実、首尾一貫は、成果を上げるための能力の、欠かせない必要条件であるということです。それらに大きな弱みを持つ人は、いかに能力が優れていても登用はできない。
■【習慣④】優れた能力を活かせる領域で成果をあげることに集中する。
弱みを無くすことにエネルギー(=時間、費用、努力)を注ぐより、強みを活かすことにエネルギーを注がねばならない。
現在の企業業績は、弱みがもたらすものではなく、強みが十分に活かされていない結果であると見る姿勢を身につけることです。
■ エグゼクティブが果たすべき任務は、人間を変えてしまうことではない。むしろ個人のもつ強み、活力、意欲を動員することによって、成果を上げる組織
やチーム全体の能力を、個人での仕事より何倍も高めることです。
■ 成果を上げるための秘訣は「集中」である。
成果を上げるエグゼクティブは、もっとも重要なことから始め、しかも一時にひとつのことだけを行う。ひとつのことについてさえ、成果を上げる仕事をす
ることは難しいという事実が、集中を必要とする理由である。
状況に任せば、「あれもコレも」となります。能力があると自認する人ほど、多くのことを同時に行うという落とし穴に陥る。そして手を付けたすべてに凡庸な成果しか出せない。
成果を上げられない人は、ひとつの仕事に必要な時間を過少に評価してしまう。その理由は、すべてが上手く行くと期待するからである。しかし誰もが知っているように、何も上手く行きはしない。予期せざることが常に起こる。しかも、
それら予期せざることは、ほとんど常に愉快なことではない。
必要なことは、多くのことをなさねばならないし、成果をあげなければならないからこそ、エネルギーをひとつのことに集中する。しかも最も重要なことを最初に行うべく集中することである。
■ 時間は有限な資源です。時間は制約条件です。
時間をかければいいということではない。しかし時間が無いということが、成果に至らなかったことを多く作ってしまうのは事実です。
仕事はアイデアではない。
実行する方法、人、作業、組織を作らねばならないのです。意思決定はアイデアで行われます。しかし、アイデアから、作業と方法を作らねばならない。これには、膨大な人手と時間を要します。
意思決定すれば、現場が実行できるということではない。
■ ドラッカーは生産的でなくなった過去のものを捨てるべきと言います。
その場合、完全に失敗した過去は自然に消滅するが、昨日の成功で非生産的に
なったものは生き続けるので捨てることができないとも言います。
さらに危険なことは・・・むしろそれら(=今成果が上がっていないこと、成果の上がる見込みが無いこと)よりもはるかに危険なものがある。本来上手くいくべきと思いながらも、なぜか成果の上がらない活動である。
あらゆるエグゼクティブが知っているように、新しいものに易しいものはない。新しいものは必ず問題にぶつかる。従って新しいものには、悪天候に入ったとき切り抜ける手立てを、最初から講じておかなければ失敗を運命づけられている。自ら成果を上げることを欲し、組織が成果を上げることを欲するエグゼクティブは、常にあらゆる計画、活動、仕事を(短期・長期の成果に照らし)点検する。
彼は常に、「これは今でも価値あるか」と自問する。もし答えが「ノー」であるならば、彼自身の仕事の成果と組織の業績にとって、真に意味のある仕事に集中するために、それらのものを捨ててしまう。
私の知る限り、アイデアが不足している組織はない。創造力が問題なのではない。そうでなく、折角の良いアイデアを実現すべく仕事をしている組織が、あまりに少ないことが問題なのである。皆が、昨日の仕事に忙しすぎる。
エグゼクティブが本当に行うべき決定は、優先事項を決めることだけではない。優先事項の決定は(未来に向かうことだから)容易である。(ところが未来に向かって)集中できる時間をつくることのできるエグゼクティブがあまりに少ないのは、「劣後順位」の決定、すなわち取り組むべきでない仕事の決定と、それを守ることが至難だからである。
なぜ「劣後順位」の決定と遵守ができないのか?
経営の環境や状況からくる圧力は、常に、① 将来より過去に起こったものを、
② 見えない将来の機会よりも起こった危機を、③ そして外部に実在するものより組織の内部で見えるものを、④ 更には、将来に向かって意味あるものより今切迫したものの解決を優先するからである。
行わなければならないことという決定方法では、優先事項が出てくるだけです。優先事項を実行するには、同時に、やめるべきこと、後回しにすることを決めなければなりません。
■ 集中とは、「真に意味のあることは何か」、「最も重要なことは何か」という観点から、時間と仕事について意思決定をする勇気のことである。そしてこの(明日の成果に向かっての必要な変革への)集中こそ、エグゼクティブにとって、時間と仕事に鞭打たれる従者となることなく、逆に時間と仕事を支配する唯一の方法である。
未来の成果に向かって集中するには「勇気」がいるということに着目すべきです。その方法とはどんなものか?
①過ぎ去った過去より、今日と違った未来を重く見る。
②起こった過去の問いの解決より、未来の機会に焦点をあわせる。
③横並びでついて行くのではなく、先行して方向を決める。
④安全で簡単な商品開発より、明日の大きな成果を生む技術と事業のイノベーションを選ぶ。
これらのことは、起こった状況から選ぶ選択ではなく、将来を創る意志が選ばせることです。未来を選ぶ勇気と言えます
未来は、向こうからやってくるのではない。未来は人間の「意志」が創ります。与えられた環境は選ぶことはできませんが、人はその中で自分の意志で自分自身の歴史を創ります。
■【習慣⑤】成果に焦点を当てて意思決定をすること。
意思決定は、エグゼクティブの任務(ミッション)のうち、最も重要なものです。時間を使えば有効な意思決定ができるというわけではない。能率的な仕事の方法はある。しかし効率的な意思決定の方法はない。そもそも、意思決定において「方法」といえるものがあるのか?ドラッカーの面白さは、こういったところにまで、解答を探そうと試みることです。
■ その解答を①姿勢 ②方法 ③実行 ④成果にまとめ、公式にして言えば以下のようになります。
【原則① 姿勢】
個々の問題としてではなく、戦略的に、一般的な問題として考えなければならない。
問題は個別に現れます。しかし原因には共通性があることが多い。共通の原 因を見つけ、解決策を決めることを、ドラッカーは「戦略的」な意思決定と 呼んでいます。
有効な意思決定は、起こった問題への対処だけではなく、共通原因への対策です。システマチックな対策ということもできます。システムとは、問題解決という目的をもった仕組みです。
【原則② 方法】 一般原則に基づいて(戦略的に)意思決定を行うべきものと、個別の異なる 事情に基づいて(個別に)意志決定すべきものを分けなければならない。
一般とは、共通性があって、他の多くのことに通じるという意味です。特殊 とは個別的、例外的なことです。何が一般的で何が特殊かという判断は、知 識によるしかありません。
【原則③ 実行】
意思決定のプロセスにおいて最も時間をとるのは、意思決定そのものでは
なく、意思決定の実行である。意思決定は、(現場の)仕事のレベルにおろさ ない限り、意思決定とは言えず、「よき意図(またはアイデア)」に過ぎない。
意思決定は、現場での実行(Plan→Do→Check のマネジメント)にまでコミット(関与)しなければならないということです。
【原則④ 成果】
成果をあげる意思決定には、概念的で高度な理解が必要である。しかし実行のための行動は、可能な限り単純なものでなくてはならない。現場が実行できなければならない。
現場の仕事は、普通の人が実行できるように、単純にして手順化が必要です。
■ ドラッカーは意思決定が有効である前提条件として科学の概念である「境界条件」というものを使っています。
境界条件とは、あることが有効なものとして成立するための前提条件のことです。例えば・・・
「三角形の3つの角の和は 180 度である」という幾何学の真理は、三角形が平面上に直線で書かれたものであるという前提(=境界条件)を持っています。平面ではなく、球の上に書かれた三角形(境界条件とは違う状況)では、3つの角の和は 180 度より小さくなり、180 度は真理でなくなります。
境界条件を簡潔かつ明確にするほど、意思決定は成果を上げるものになり、達成しようとする成果を上げる可能性が高まる。逆にいかに優れた意思決定に見えようとも、(その意思決定が有効な)境界条件を明確にできなければ、成果が上がらないことは確実である。
意思決定に当たっては、この決定が有効である目的と境界条件は何であるかを、常に明確にし、書き下ろしておかねばならないのです。
■ 成果を上げる意思決定は、事実を多く集めれば正しい判断ができるかといえばそうではありません。事実にもとづく判断は必要条件を満たしていますが十分条件を満たしているとは言えません。
なぜなら、事実の認識そのものに判断が含まれ、事実と思えるようなことも実は「意見」だからです。
意見は事実の認識からくる見解です。意見は真理とは違います。意見は未検証の部分が残る仮説です。(仮説とはこうに違いないというアイデアを論理的に組み立てたものです:筆者)
意思決定も、科学と同じように、仮説が唯一の出発点である。
仮説とは、科学における仮定です。その仮定に反することがないという境界条件の中で、真理とされるものです。
事業での決定は未来に関わる事です。未来はまだ起こっていない。つまり起こ
った事実ではない。そうしたことについて決定を行わなければならない。
■ 会社の命運を分けるような大きな投資が有効であるかどうか、どう判断するか?評価基準は多様にあります。
例えば
①投資の回収期間の長さ、短さという評価基準
②投資の利益率という短期の基準
③投資がもたらす利益を金利とリスクで割った現在価値という評価基準
回収期間、短期の利益率、将来利益の現在価値のどれを重視するかという評価のそれぞれで、投資が有効かどうかの判断は分かれます。
ドラッカーは正しい意思決定には、適切な意見の不一致が必要である・・・この決定がいかなる意味を持つかについて深く理解するために、意見の不一致を(意識して)生み出すことであると言っています。人は皆、異なる現実を見ています。従って
①意思決定を行う人は、誰であれ、暗黙の前提条件の囚人になっています。
ついつい自分の起案と判断にそった都合のいい事実を集め、異なる状況が起こったときのリスクを軽く見ているからです。
②異なる意見(反対も含む)は別の選択肢を見せてくれます。
他の選択肢と比較検討されていない決定は「ばくち」です。事業の意思決定は賭博であってはならない。
③異なる意見は、想像力を刺激します。異なる状況、現実、問題を見せてくれる。
事業においては、未来に向かった想像力が必要です。意思決定は、未来への想像や構想での戦いだからです。構想力と言っても同じです。
■ 異なった結論に達している人は、自分とは違う現実や事実を見て、決定後に起こる異なる問題に気がついているかもしれない。
エグゼクティブは以下のように自問せねばならない。
もし彼の意見に筋が通っていて、合理的で知的なものであると仮定すれば、一
体彼は、どのような事実を知り、どのように認識しているのか?
意思決定にあたっては、
・「誰が正しいか」という権威主義、権力主義、言い換えれば知的責任の放棄ではなく、
・「意見を比較検討した上で何が正しいか」を求めなければならない。
更に、自分の見方が唯一のものであるとしてはならない。誰でも自分の見方、認識、意見からしか出発はできない。しかし、他の人も、他の見方、認識、意見を持っていると想像しなければならない。
誰が正しいかではなく(権威主義)、何が正しいか(事実主義)という観点からの意思決定でなければならない。
■ 次は決定したことの実行です。実行に当たって重要なことは、意思決定における大切なことと異なります。
一旦決定されたことは、反論を述べた人も実行しなければなりません。反論を述べたから実行しないというのは実行責任の放棄です。
決定したことには、実行では全員がそれに従うことをルールにしなければいけません。そして決定が誤っているとわかったときは、即座に修正を行います。
成長する組織で、もっとも重要なことがこれです。
意思決定は不確実な未来の成果を予測して行うものです。
もし仮に、意思決定が誤っていたとしても、致命的なことになる前に、修正ができること。
決定したことは、実行と成功へコミットメントすること。
大切なことは、決定を成功させることへのコミットメントです。
エグゼクティブは、意思決定だけの責任ではない。
決定のあとの実行の仕組みづくり、すなわち、実行者チームと手順づくりと、
実行の結果である成果にもコミットメントしなければならない。
成果をあげることは、持って生まれた才能ではなく学習で習得できるとドラッカーは言っています。そのためには、最初にあげた「5つの習慣」から始めることです。
<完>
◎今読んでも素晴らしい内容だと思います。本文を参考に自分で自分の考え、やり方の「改善」「強化」「付加」に活かしてください。
以下は私のオリジナルです。参考になれば幸いです。
■ドラッカー教授は 2005 年 11 月 11 日に 96 歳で永眠されました。その後「ドラッカーの遺言」という著書が出版されました。その中にはさらにシンプルに経営の本質を語っておられる部分があります。以下はそれを紹介いたします。
■「経営の本質とは何でしょうか?」― こう問われるたびに、私が問い返す三つの質問があります。
①「あなたの事業は何か?何を達成しようとしているのか?何が他の事業と異なるところなのか?」
②「あなたの事業の成果を、いかに定義するか?」
③「あなたのコア・コンピタンス(独自の強み)は何か?」
先の三つの質問を一言で言えばこうなります。
『成果を得るために、どんな強みを活かして、何をしなければならないのか?』
経営の本質はすべてこの一言に言い表されています。
■ ドラッカーはこのことを別の表現で、あらゆる仕事に通じる普遍的な問いかけとして次のように述べています。
「目的は何で、その達成のために何をすべきか?」
この問いかけは、あらゆる組織、あらゆる職業を通じて変わることない普遍的な質問です。組織や職業の違いによって変化するのは、その答えだけ・・・何をめざしているのか、そのために何から手をつけるのか、そのことの理解なしに、経営はただの一歩も歩みを進めることはできません。
■ 最後に、
「人はリーダーに生まれない。生まれついてのリーダーなど存在せず、リーダーとして効果的にふるまえる習慣を持つ人間が、結果としてリーダーに育つのだ。」
ドラッカー教授の言葉には本質的なメッセージがあふれています。
■ 09 年 12 月に岩崎夏海さんが「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」という本を出版されました。ご存知のとおり 2010 年最も売れたビジネス書でした。累計 200 万部を突破しています。
ビジネス書では異例のベストセラーです。面白い小説仕立ての本で、読みやすく勉強になります。(ダイヤモンド社発行 1,680 円です。)
● それでも岩崎さんは一発屋でしたね。その後ビジネスジャーナルで取り上げられることはありません。本を書いただけで企業の成果に貢献されるというアフター活動が無かったのかもしれません。推測ですがよくあることです。
最近はあまりドラッカーの関する著書は出版されていません。さらに研究をされる方は古書を格安で探されれば良いのではないでしょうか。ですが知識を増やすより、仕事の実践で成果を実感することが大事です。
平成 19 年 8 月 1 日 プロセスコンサルティング 鶴崎
平成 22 年 5 月 19 日 加筆修正 平成 23 年 5 月 18 日 再修正
平成 26 年 3 月 10 日 加筆修正
平成 30 年 12 月 20 日 さらに加筆修正
●ところで第一線を引退した私の現役時代の自己評価は、甘く見て60点です。
5つの習慣を常に携行していたわりにその成果の貢献度は今一歩と思います。
それほど知識と実践には格差がありました。ですからこれから本文を参考にされる方も、ここに書いてあることを覚えるのが目的ではなく、実践を通じて社会に貢献し、そのプロセスでご自身の能力開発にいかされるという姿勢で臨まれることを切望いたします。<再び完>
★重要な文言はゴシックにして読みやすくしてあるのですが、本欄へのアップではそれがかないません。ご容赦ください。
- 登録日時
- 2019/01/07(月) 12:28