【2019年02月の提案】
▲近所のコンビニのイートインコーナーにあった学習塾の広告です。本文にあるマーケティングストーリーとマーチャンダイジングストーリーの事例になります。どちらがどちらかは当ててください。
販売のストーリー化理論を生み出すまで<その2>
■40歳まである会社のスタッフとして精神的には快適で、組織の安全地帯で研修や組織の活性化プロジェクトの事務局を仕事としてきました。しかし40歳にして社内転職です。突然営業部門の長として10数店舗のマネージャーに任命されました。そこには直接数値責任とお客様からのクレームに対応するという重責が待っていました。
●組織方針発表会のあと各部門に分かれて店長たちとの顔合わせと所信表明をさせられました。前任者のバリバリの営業部門長は不本意だったのでしょう。憮然としながらも薄笑いを浮かべ「自分の好きなようにやったらよろしいがな」と言って退任のあいさつもそこそこに出ていかれました。
●ここから以降15年に亘る私の営業部門における仕事生活が幕を開けたのでした。このまま趣くままに書くと私の回想録になってしまいます。今回のテーマからははずれるので軌道修正します。いかにしてマネージャー生活を行いそこで何を自分の仕事の礎としていったのかを述べましょう。
■私の仕事のスタイルを支えたキーワードは・・・
①手段に前に『目的』を考える。
②手段は『誰に、何を、いかにして』と、考えるマーケティングストーリーと、『何を、誰に、いかにして』と、考えるマーチャンダイジングストーリーがある。小売業では『何を』から始めることが多い。
➂マネジメントはセールスと同じ『知って、掴んで、動くまたは動かす』で行う。そこに『5W2H』『PLAN→DO→CHECK』を絡めて充実する。
●以上の3つでした。しかし初期には①はなかなか分からず、「どうしたらいい
のか」という手段から発想することが多かったですね。それは最初に数値目標を
会社から与えられ、それを前提に達成方法を考えるという思考習慣に陥ってい
たからです。
●これはサラリーマンの仕事人なら誰でもそう考えるのが普通です。それが変
化していったのは、私の場合は当時の上司から改装計画の承認をもらうのに、
「それは何のために行うのだ」とか「実態はどうなっているのか調べたのか」、
「なぜそう考えるのか」「どういう成果が得られるのか」など厳しく追及を受け
て店長といろいろ考える中から目的(ねらい)の重要性に気づいて行きました。
●店長と酒を飲みながら「おっさん何故あんなことを言いよるんや」「しゃな
いもうちょっと掘り下げて調べてみようか」などとぼやきながら真剣に考え、
やっと承認をもらいました。そして実行につなげて成果を上げた時は部下との
心情的な距離が近くなったと実感したものです。
●共に考え、共に動き、共に成果を分かち合えば一体感は生まれるものです。私
が経験したような立場の中間マネージャーは、上司の意向を傘に着るのではな
く、部下の味方をして共に目的を定めその達成に邁進する姿勢が無いと上手く
いかないのではないかと思っています。
●後年コンサルタントとして上司がいるマネージャー職の方に多く接しました。
ですが殆ど自分の仕事の「目的は何だ」という問いにスムースに答えられた人は
少なかったですね。数値目標はしっかりと認識されていましたが…。
●目的と言うことで影響を受けたのは元セブンイレブンの総帥だった鈴木敏文
氏の「我々の仕事は<お客様の購買代理人>だ」という考え方です。お客様が求
めるものに気づかせ、最適なものを選ぶ手助けを行う。それを飽きさせない
で繰り返すように働きかける店を創ることだという主旨だったと記憶していま
す。
●以降引退するまで、いや今も「目的は何か」を考える習慣は身についています。
目的は何かを考えると物事の本質が見えやすくなります。必ず見えるとは断言
できませんが、対人関係においては相手のねらいが分かりやすくなります。
●現在は企業家の成功、失敗例を読んで彼は何のために起業したのか、何を目的
に掲げ会社を引っ張っていこうとしているのか、それは正しかったのか、誤って
ていたのかを事例で学ぶのを趣味の一つにしています。
■次に②の手段の2つの視点、マーケティングストーリーとマーチャンダイジ
ングストーリーについて述べようと思います。これが私の『販売のストーリー化理論』の肝になる部分です。(ここから書けば早く終わるのにね。)
●ただ販売のストーリー化については当欄にて2015年の春に書きかけていますね。それからほどなくして私は癌に罹っているのが判明したようです。少し重複しますがもう4年近くも前のことです。記憶をされている人は居ないでしょうから(笑)再び書きます。
●この考え方は『9つのボックス』でまとめることができます。その後、派生的に要素を付加して『11のボックス』まで増やしましたが、基本は9つです。
主な使い道は『お客様の代理人としての効果的な売場づくり』でした。
●マーケティングストーリーとマーチャンダイジングストーリーは主語の違いだけで同じようなものですが、実践では随分と視点が違ってきます。9ボックス
にすると以下のようになります。(原文では図表にしましたが登録すると枠は消えていると思います。ご容赦ください)
①誰に何を②何を誰に➂いかにして
④必要性の喚起⑤比較選択の援助⑥購入決定の促進
⑦欲しくなるか⑧選びやすいか⑨決めやすいか
●①は対象顧客の塊をあきらかにして何を売るかと考えます。 ②は初めに売りたい商品ありきで、想定顧客はどうするかです。➂それらをどのような手段で伝え、比べ、購入に結び付けるか。それを具体化したのが④以下です。必要性に気づかせ、最適なものを選ぶ比較検討の材料を提供し、購入決定をしやすい状態を創るという流れで考えることです。
●⑦⑧⑨はそれをお客様の立場で検証するというステップです。果たしてその提案は購買意欲を高めるか、迷った時に選びやすい比較検討の材料が提供されているのか、購入の決断をしやすい価格表示、支払方法、特典があるのかと考えるためのものです。
●常に売り手の仮説の押し付けだけにならぬよう、お客様の立場で受け入れられるかを考える習慣のために必要なステップです。残りの2つは⑥のあとにつなげる、⑩アフターサービス関連、⑪付帯サービスや使いこなしのための援助です。
●ここまで『販売のストーリー化理論』の概要を説明してきました。具体的な事例は携帯電話ショップの支援で約10年間実行してきました。製品の進化、お客様の進化などで古い事例は参考になりにくいかと思います。本欄では特定企業の事例ですので多くの写真とコメントはありますが公開は差し控えさせていただきます。
●経験を積むごとに我ながら素晴らしいと思うコメントができるようになりました。基本となる理論(概ね自分で考えて創り上げた)があるから的は外しません。現場の人たちが作り上げたもののほとんどはこの枠組みの中でアドバイスができました。
●中には私の視点とは違う素晴らしいものも発見できることもありました。それも自分の理論に固執することなく謙虚に対応することができました。判断の物差しは「お客様の反応はどうだったか」「その手段は成果につながったか」「良くも悪くもその理由はなぜなのか」というという問いで学んできました。
●コンサルタントとしては携帯電話ショップのクライアントが主戦場でした。
この分野では商品アイテムが多くないため、「何を」の領域は限られたもののためやりやすかったですね。
●しかしサラリーマン時代の販売のストーリー化では「何を」が家電量販店のため多品目を扱うことが多かったですね。この場合は店の品ぞろえ=商品構成=商品力マップが重要な決め手でした。(商品力マップも私のオリジナルです)
●これは現在も多くの小売業で重視されていると思います。家電量販店のみならず、ホームセンター、専門量販店(ニトリやユニクロ、しまむら、ABCマート等)、スーパーマーケット(主に食品)、100円ショップに至るまで「商品構成」が決め手となっているでしょう。
●それが「いかにして」という手段で、売場づくり、接客応対、販促対応などの優劣で競争をしているのが実情でしょう。その努力がお客様への価値提供となり評価の分かれ目になっていると思います。
●昨今の小売業は商品を仕入れて集めて編集して提案するだけでは、低価格競争への道しかなくなりつつあります。特に家電量販店はレッドオーシャンという血みどろの競争地帯と言われています。
●それに比べて食品スーパーでは品ぞろえに店の(企業の)オリジナリティが活かせやすいといえます。購買頻度も高く、小商圏でのマーケットサイズも大きいので企業規模にかかわらず競争力を発揮しやすい分野になっています。
●自社で商品を開発し製造販売まで一貫して行う、ユニクロやニトリ、それにセブンイレブンに代表されるコンビニ各社の商品開発力は、お客様への「価値創造と提案」を生み出しています。つまり『何を』に対する取り組みのレベルが商品を集めるビジネスの次元を凌駕していると言えるでしょう。
●また少し横道にずれました。軌道修正。(笑)マーケティングストーリーとマーチャンダイジングストーリーの2大機能のどちらが優先されるのか、これは経験上、マーチャンダイジングストーリーだと思います。
●なぜなら消費者の多くは自らこんな商品が欲しいとは言わないからです。売り手がこういう商品はこういう価値があるからどうですかと提案するから反応するのが多くの消費者です。
●ただ商品を集めて価値を提案しているだけではお客様を見つけられない(惹きつけられない)ことがあります。その場合、その商品の『対象となる顧客像』を明らかにして訴求した方が伝わりやすくなります。
●表題の上の写真の事例はまさにその両方を表現したものです。他にも事例は沢山あります。BSテレビの健康食品類の通販広告を見れば簡単に分かります。またこの『対象となる顧客像』を販売実績から見出すのも売り手の努力です。単に年齢別、性別、職業別などのマーケティングセグメンテーションの定石だけでなく、生きた切り口を発見して創造する努力が売り手に求められている時代です。
●私の販売のストーリー化理論は理論というにはおこがましいのですが、私が到達した考え方とでもご理解いただければ幸いです。多品目を扱う量販店でも分類ごとに分ければその塊で私の考え方が活用できます。
●<その1>で、ある家電量販店の炊飯器売場で感じた私の違和感は、そこに顧客の立場にたった販売ストーリー(購買ストーリーともいう)が見受けられなかったからです。なぜ気づかないのだろうと思わずにはいられません。ヨドバシカメラ梅田や、広島のエディオンではかなり実践されていた記憶があります。
●例えば「比べて選ぶ手助け」に関する情報は不十分です。おそらく接客で伝えておられると思うのですが、何と何を比べれば選びやすいかという視点があるか否かです。比較には①グレード間の機能・性能差の違い ②同一グレードでの機能・性能差 ➂現在使っておられると思われる製品との機能・性能の進化度の差等の視点があります。(他にも切り口はあります)
●また全体を通して『わかりやすさ』の追求が必要です。これについてはまた別の機会に「わかりやすさ7つのポイント」を紹介したいと思います。
●難しいことではありません。『お客様の購買代理人』だという自覚を持てば具体策には自然と気づくものだと思います。目的が具体的で強烈であればあるほど、手段・方法の知恵は浮かびやすくなります。これからは店頭だけでなくネット上でもさまざまな工夫がされると思います。小売業の進歩向上を切に願います。
●次回はマネジメントの定石について私なりに実践から掴んだものを既存の理論と絡めて紹介します。これも現時点での書下ろしにします。ではまた。
■大げさに「理論」という言葉を使っていますが、自分なりの理屈を築いたという意味で使っています。厳密にいえば理論というには問題点は多いと思います。正確には「考え方と手段・手法」が正しいかと思います。しかもすべて実証データを付けているわけではありませんから、「仮説」であるというのが正しいでしょう。そのあたりはご理解と ご容赦ください。
●尚、表題は<その2>となっていますが<その1>は昨年12月の雑感⑤で述べた「家電量販店で気づいたこと」です。今回から本論は「雑感」から「提案」に致しました。急に思いついたことではないという自負からです。(笑)
<続く>
■尚、本稿は2019年2月中にぼちぼち書いたものです。今日2月26日にアップしますが2月の提案としてお受けとめ下さい。
- 登録日時
- 2019/02/26(火) 13:54