【2019年11月今月の提案④】体験から学んだ私のマネジメント論 第4回
▲須磨離宮公園の薔薇の花シリーズです。今回はリリー・マクレーンです。
方針とは何かと手段と方法の違い
■初めにこれから書くマネジメント論を次のフレームワークを念頭に書きます。
①言葉の意味(定義らしきもの) ②目的や理由 ➂具体的な手段・方法
④実例 ⑤注意点、今後の課題等。
■第3回を読み直していて気づいたことがあります。「目的・目標」に対して「手段・方法」の記述が少ないこと。それに当時私が悩んだ「方針」とは何か、この位置づけを明らかにしておかねばならないなと思います。
●まず「手段と方法」の違いから。手段は目的・目標を達成するのに『何を行うか』ということです。そのために経営資源である人の質量、モノ(商品)、金、時間、情報、ノウハウ、システムをどのように駆使するかを決めることで成立します。
●方法とは手段を行使するための具体的な『やり方』のことです。技術、段取り、手順などが方法に含まれます。企業によっては業務マニュアルとして作成され運用に駆使されているものです。手段は方法論が伴わないと『実行力』にはなりません。
●実行しないと成果は得られません。実行するから成功も失敗も生まれるのは自明のことですね。仕事をするということはどのような種類のものでも、「実行する力」によって成り立っています。そこで常に『手段を考え、それを行う方法について研究、研鑽する』ことが求められています。
●仕事の腕を上げるには、仕事を通じて絶えざる「手段と方法の開発」を考え、実践し、結果から反省して学ぶことで達成できますね。当たり前のことを言っていますが、まだまだ不十分だな思う方はぜひやってみてください。
■次に『方針とは何か』について述べます。以前にも本欄で書いたと思うのですが、私が40歳のころ本社スタッフから営業部門のマネージャーに転出した時のことです。
●新・エリアマネージャーに任命された私は15,6名の店長を前に新任の引継ぎ会合に出ました。前マネージャーは簡単に退任のあいさつをされ出ていかれました。店長たちは私の方を注目し、「この人は何を言うのか」という顔で見ておられました。
●私は突然の異動であり、前任者からは「好きなようにやってください」としか言われなかったのでハタと困りました。そこで「今発表があって着任したところなので、皆さんに今後の方針を言うことはできません。しばらくは前任者の方針のもとに進めておいてください」「早急に一店一店を巡回します。そこで店長と面談して現状の状況を聴かせてください。それから私の方針を述べます」と言って凌ぎました。
●その時には「方針とは何か」という理屈は分かっていましたが、具体的に自分が任された組織の実態は分かりませんから、実のある方針は述べられません。まずは「実態を把握してから」というマネジメントのセオリーで動こうとしたのです。今後述べます、「SEE THINK=見て考える」や仕事研究の方法である「実態を把握してから方策を考える」の実践でした。
●その後は自分の管轄する組織の目標をメンバーと共有し、結束を固めていくのに方針は重要な役割を果たしました。しかも店長たちとの1対1のコミュニケーションを現場で行うことで地に足の着いた方針を打ち出すことができました。
●さて方針とは何かについては本稿を書く前にネットで検索すると素晴らしい論考が出ていました。まずはそのURLを掲げておきますのでクリックしてご覧ください。参考になれば幸いです。
http://u-note.me/note/47497688
●とはいえ本稿は「私の体験的マネジメント論」ですから、自分が学び、実践したことでまとめたいと思います。私が「方針とは何か」について学んだのは30歳を過ぎて当時勤めていた会社の教育担当になった時です。
●たしか産業能率短期大学(現在は産業能率大学)の先生が書かれた著書から学びました。方針とはということで4項目ぐらい条件が挙げられていました。私の記憶に残り、実践の参考にしたのは『目標達成のための方向づけと制約条件』の2項目です。後の2つは忘れました。
●方向づけの意味は『力の入れどころと力の入れ具合』でした。最初はよくわかりませんでした。入れどころって?入れ具合?。不謹慎ながらセックスが想像された記憶があります。(笑)その後よくよく考え、力の入れどころは「何を重点的にやるのか」ということ、力の入れ具合とは「強度である」と。重要な手段になることを決めて、それにどれだけの『質と量』で注力するかを決めることが方針だと。
●ただし、会社組織だから制約条件がある。例えば業界の慣習を逸脱した勝手な安売りはしない、使える金には限度があるなどが制約条件です。これ以外に何が教えとしてあったのかは忘れました。(笑)覚えていることだけが実践したことです。
●最後に私なりの方針の展開について実例をもとに示しておきましょう。何分、30年も前のことなので具体的な内容よりもその論理だけお汲み取り下さい。
家電量販店での事例です。
●ある月の目標達成のために数値目標と共に示したのがカテゴリーごと(商品分類=中分類もしくは小分類)に設定された重点アイテムの販売構成比(力の入れどころ)を25%から30%にする。(力の入れ具合)
●そのために、①売場づくりは重点アイテムの陳列位置をゴールデンスポットにする。しかも単品陳列演出を他より目立つようにする。②買い替えのお客様への情報提供として○年前の機種の機能と性能がいかに進化したか訴求する。➂接客ではお客様にとってのメリットを3ポイントで訴求する。できればツールを準備しておく。④価格訴求は安さが実感できるようにする。(現在なら分割払いとか、カード払いのメリット訴求が必要かも)
●こうしておいて後は現場に実行を任せるということになります。私はこのような方針を出しておいて、実際にどのように展開されているのか自分なりのチェックリストを作って店舗巡回をしたものです。後年、大部長に出世した折には
この時の経験を活かしチェックリストをエリアマネージャーに持ってもらい、巡回の時の『対話に役立ててもらうように』しました。好評だった記憶があります。具体的なレベルで対話するためです。上司が顔見世やご機嫌伺いで店舗巡回をしても価値が無いという考えでした。
■最後に方針について注意すべき点や課題となることを書いておきましょう。
方針と言っても組織の階層レベルで打ち出すものに差があります。経営層が出す「経営方針」からそれを受けた部門長の「事業方針」や「営業方針」、はたまた最先端の組織で出す部門方針などに違いはあります。
●留意すべきは組織としての「一貫性」です。上層部で言っていることがお題目で、現場が勝手に方針を出すなどがあってはなりません。できれば抽象から具体へと同じことを目指しているのですから連鎖していないといけないでしょう。
●そのためには、最前線に向かうほど具体的で行動につながるものでないと意味がありません。これを行えるようになるには全体から部分、そして細部へと考えられる「空間発想」と方法としての「ツリー技法」を身に着ける必要があります。これに関してはまた別稿で取り上げます。
●課題は、方針は出しっぱなしで終わるのではなく結果を検証する習慣を身に着けることです。現役時代に「予測と方針は出しっぱなしが多い」と批判的に見ていました。自分が所属した会社だけでなく、大手の家電メーカーでも取引先を集めての新年の会合で今年度の予測と自社の方針を述べられる機会が毎年ありました。ところが前年の予測と方針に対する結果報告と差異分析がないのでいい加減じゃないと生意気に批判をしたものです。
●企画を創る人や方針を打ち出す人は、先のことばかり見ていて過去を反省するのが苦手だと思っています。多くの人に共通する性癖かと思っています。新譜や新刊書に興味が行きますが、古いものを見直さないのは多くの人々に目的意識や時間をかけて達成しようというものが無い場合が多いからだと思っています。目先の好奇心を満たすものに惹かれるのは私たちに共通する性癖だと思い込んでいますが。(そうでない人も沢山おられるでしょう)
●もう一点、方針はそれを伝えて部下や関係者を動かすためのものですから、内容だけでなく「伝え方」が課題になります。「何を言うかよりも誰が言うか」によって伝わり方が違うからです。本稿では「何を」に焦点を当ててきましたが、「いかにして」についても重要なファクターになります。
●音楽で言えば作詞・作曲と歌手や演奏者の役割の違いです。同じ音楽でも表現者が違えば別物に聴こえます。方針を述べるリーダーやマネージャーの持ち味によって伝わり方が違うのは事実です。カリスマ性のある方が発信すれば内容以上にインパクトを与えるものです。
●カリスマ性は別にして普通の人でも人前での話し方、姿勢、表情、声の使い方、身振り手振りなどプレゼンテーションの基本などを学ばれると良いでしょう。その必要性は高いと思います。
●さらに伝える人の情熱、思いの強さ、真摯さなどが内容にエネルギーを与えます。私が記念に残している大部長になった(笑)ある最初の方針は気迫に満ちていて自分でも素晴らしいと思っています。しかし最初は成功しましたがその後上からの圧力で修正しなくてはいけなくなり、結果上手くいかなくなった苦い思い出があります。
●今思えば、どのように修正すれば良かったかの詰めが甘く、見識も不足していたように思えます。機会があれば検証してみたいと思いますが、あまり意味がないと躊躇するこころが働いてもいます。
●これで目的・目標、方針、手段・方法についての私の体験からくる考え方は終わります。マネジメントについてはまだまだ考えていたことがあるので書きます。年寄りの妄言かもしれませんが興味のある方は引き続きご笑覧ください。そしてご自分の考えをまとめていただくきっかけにしてもらえれば幸いです。
<完>
- 登録日時
- 2019/11/22(金) 10:50