【今月読んだ本①】
コミック 『JIN-仁』1巻から16巻 作画:村上もとか
■子供の頃からの興味に、「宇宙の果てはどうなっているのだろうか?」というのと、「タイムスリップできたら面白いだろうな」というのがありました。宇宙の果ての方はどう考えても私の想像の範囲を超えているようで、いつしか想像するのを止めてしまいました。
■タイムスリップの方は時々、私を夢想させてくれます。しかし、いつもタイムスリップするのは未来ではなく、過去ばかりです。過去に読んだ小説やコミック、あるいは映画などの経験の蓄積がそうさせるのでしょうか?要は未知の世界を想像する力はないということでしょう。
■今年の秋のテレビドラマで連続して見たのは「JIN-仁」と「リアル・クローズ」でした。特に「JIN-仁」は何気なく見始めた(家内が見ていたのを横からぼんやり見ていただけ)のですが、その設定に興味を覚えました。
■現在の脳外科医が幕末の江戸にタイムスリップするという話です。ご覧になった方も多く、最終回を終えた評判もいろいろあるようですが、概ね好評のようです。ネットのクイック評価でも他のドラマを圧倒しています。
■ここでそのあらすじを紹介するのは本意ではありません。まだネット上では情報が出ています。DVDも来年3月に発売されるそうです。私がここで取り上げたいテーマはテレビ版の主人公の南方 仁が困難に遭遇した時に、何度も自分に言い聞かせる「神は乗り越えられる試練しか与えない」についての感想です。
■実はこのドラマには原作があります。村上もとかさんが平成12年からスーパージャンプに連載を開始されたコミックです。すでに9年経っています。現在は16巻にも及んでおり、さらに連載が続いているようです。コミックは子供の頃からかなり読んでいますが見落としていました。早速第1巻を買い求めたのが11月の初めだったと思います。
■以来、約1ヶ月で我慢をしながら読み終えました。本当なら1週間もかからずに読んでしまうところですが、仕事もありましたし、一気に読み終えるのは惜しいと思えるほど、惹き付けられる内容でした。とにかく面白かった。
■コミックも大好評のようで、本屋さんに行くと平積みで大きく展開されています。テレビの影響は大きいようです。視聴率が20%とすると850万世帯で視聴されるということですから、およそ2,500万から2,000万人の人が見るわけですね。仮に5%の人がコミックを買えば、1巻あたり100万部売れるのですね。凄い数字です。
■余計な詮索はやめて本題に入ります。テレビドラマと原作は違うものだというのはよくあることです。このドラマはテレビとコミックで、小さなエピソードには量以外には大差がないのですが、大きな設定に差があります。
■ひとつはテレビでは、南方仁が現代では花魁の野風の子孫と思わしき女性と恋愛関係にあったという設定です。その女性、未来(思わせぶりな名前ですね、女優も中谷美紀)が仁の手術で植物状態になっている。その写真がオカルト的に扱われていることです。それはテレビ版の制作者の、原作が連載中なのを配慮しての設定なのでしょうか。そして結末をあのように描くためだったのでしょうかね。私はあまり気に入りませんでした。
■もうひとつ気になったのが、テレビ版の主人公が発する「神は乗り越えられる試練しか与えない」という言葉です。確かコミック版では、もっと多くの試練に出会いますがそんなことは言っていなかったと思います。(記憶だけです。もう一度読めば、見落としているのかもしれませんが、印象には残っていません)
■これはテレビ版を創った人たちのメッセージでしょうか?要は、現在の視聴者に、困難なことに遭遇した時もそれを試練としてとらえ、打ち勝て、乗り越えて生き抜けということでしょうかね?
■人が生きているということは、「環境の中で生かされ、生き抜く」存在だというのはわかります。しかし、本当に神は存在するのか?(私は信じていませんが)テレビの中の南方仁は信じていることになっているのだから、とやかく言う必要はないかもしれません。(原作では、「この世に…もし神が存在するならば…」という懐疑的なセリフを言っています。<第1巻>)
■しかし、試練とは何かから与えられるものだろうか?という疑問があります。私は、試練も自分が選んだ生き方のなかに発生するものではないかと思っています。試練とは自分にとって上手くいかないこと、思ったようにならないこと、くじけそうになることですね。それは各人の「こころの持ちよう」で生まれてくるものだと思います。
■そうすると、それは全て乗り越えなければならないことでしょうか?生き抜くためには、時には「逃げる」「捨てる」「引き返す」「道を変える」などの乗り越えない対策もあるのではないかと思ってしまうんですね。
■このドラマのように、主人公が自ら選んだ道ではなく、与えられた環境の中でいかに生き抜くかというのは試練でしょう。本人は自らが望んだわけでなく幕末にタイムスリップしてしまい、生きる目的(目標)を持って生きているわけではありません。目的(目標)がない中で、目の前に次々起こる試練に立ち向かうという設定の構成です。
■そこで南方仁がよりどころにするのはこの言葉です。この言葉に奮い立たせられて、困難に立ち向かっていく姿が描かれていましたね。それはこのテレビドラマが多くの人々の共感を呼んだひとつの要因かもしれません。
■人の生き方には、人生に明確な目的(目標)を持って生きる生き方と、そういうものは曖昧だがより良く生きようという生き方があると思っています。そして高い目的(目標)を持って生きている人ほど試練に遭遇する事が多いのではないかと思います。
■そういう人たちにとってこういうメッセージはリアルに響くのではないでしょうか?目的(目標)に向かって生きている人にとって、逃げるとか止めるという言葉は嫌われるでしょうからね。試練は乗り越えるものだという前提に立って、考え行動をするでしょう。
■目的(目標)は曖昧だがより良く生きようとする価値観の人にとっては、相対的に試練は少ないのではないでしょうか。それでもいじめにあったり、病気になったり、地震に遭ったり、会社が倒産したりという試練はあるでしょう。それでも常にその試練を乗り越えるためにという考え、行動にはならないと思います。
■原作のコミックでは、与えられた環境の中での困難を、多くの人たちの助けを借りながらも乗り越えていく南方仁が描かれています。物語の王道である「困難を乗り越える創意工夫と行動」「愛すべきパートナーの存在」「愛と死」「助けてくれる人々と対抗する人々の存在」「旅をする」「出会いと別れ」「解明されない謎」などが盛り込まれ、非常に面白くしてくれています。
■医学的な権威ある監修者が存在し、内容に瑕疵がないよう配慮されています。なかなかの力作です。そしてこれからは、親交を深めた坂本竜馬の暗殺が近づきます。それを阻止すべく南方仁の意思で明確な目的(目標)を持って、咲さんたちを伴って京に向かいます。目的を明確に持つことでより困難な試練が予想されます。
■果たして南方仁は歴史を変えるのか?変えたらどうなる。変えなかったらどうなる。それらにどのように立ち向かうのか?予想をするのは楽しいですね。それに、一緒にタイムスリップしたと思われるホルマリン漬けの封入奇形胎児と、現代に取り残された男の正体は?果たして南方仁は現代に戻れるのだろうか?という謎は残したまま引っ張られます。いいですね。面白い!
■なにやら論理が曖昧な感想文になりましたね。しかしこうして文章にするということは、後年、振り返って反省する素材になるでしょうね。ともあれ村上さんの原作は面白いです。コミックをぜひお読み下さい。私はもう一度読み返すことになるでしょう。来年3月にDVDがリリースされたら、レンタルで借りて見直してみます。その時には、この感想文の内容も変化するかもしれません。(笑)
<完>
- 登録日時
- 2009/12/28(月) 15:57