【今月読んだ本②】
もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら
岩崎夏海著
■本書の著者の岩崎氏は大学卒業後、作詞家の秋元 康氏に師事し、放送作家として「とんねるずのみなさんのおかけです」「ダウンタウンのごっつええ感じ」等のテレビ番組の制作に参加され、アイドルグループ「AKB48」のプロデュースなどにも携わられた方です。現在はある事務所のマネージャーとしてお仕事をされています。(著者紹介から)
■最初になぜ著者の略歴をご紹介したかといいますと、本書は小説形式で書かれたマネジメント書です。表紙を写真でご紹介していますが、書店のビジネス書コーナーでは異彩を放っています。私は最初「なんじゃこれは?」と思って手に取りました。手に取った理由はタイトルに「ドラッカー」とあったからです。
■270P強の本書ですが、2日ほどで一気に読みました。構成はタイトルどおり、ある東京の都立の高校の野球部の女子マネージャーが主人公です。彼女が高校2年生の夏に野球部のマネージャーになるのです。その時彼女は「野球部を甲子園に連れて行く」という明確な目標を決めます。
■そんな彼女がどのようにしてその目標を達成するのかを考えた時、マネージャーとはいったいどういう意味で、何をする人なのかに疑問を持ちます。そして本屋さんでドラッカーの「エッセンシャル版マネジメント」に出会います。それを参考書に彼女のマネージャー奮闘記がはじまります。
■このあたりまで読みながら、ドラッカーを読むような女子高生は居るのかな?よく都立高校を甲子園に連れて行くというような目標(使命)が持てたなんて、まさに作り話の世界だなと感じました。
■これは著者の思いを女子高生に託したおとぎ話だと得心して読み進みました。確かに小説としても面白い展開になるのですが、その間にチョイスされたドラッカーの言葉が素晴らしいのです。読み始めると、思わず付箋を貼り付けながら読み進みました。
■野球が好きな私ですから野球の話は面白い上、ドラッカーの言葉の選択が小説の展開の中に見事に納められているので、興味を惹き起こされました。これは岩崎氏が相当ドラッカーを読み込んで、実践もされたことがベースにあるのだと感じました。
■最初にマネージャーの資質についての記述と引用があります。『人を管理する能力、議長役や面接の能力を学ぶことはできる。管理体制、昇進制度、報奨制度を通じて人材開発に有効な方策を講ずることもできる。だがそれだけでは十分ではない。根本的な資質が必要である。真摯さである。(130頁)』というようなものが25項目ぐらいあります。
■それが小説の展開に合わせて適切に選択されているので、とても理解がしやすいのです。私がもっとも心を動かされたのは第6章「みなみ(主人公の名前)はイノベーションに取り組んだ」の中に出てくるドラッカーの言葉です。
■本書の175Pにこうあります。
『あらゆる組織が、事なかれ主義の誘惑にさらされる。だが組織の健全さとは、高度の基準の要求である。自己目標管理が必要とされるのも、高度の基準が必要だからである。
成果とは何かを理解しなければならない。成果とは百発百中のことではない。百発百中は曲芸である。成果とは長期のものである。すなわち、間違いや失敗をしないものを信用してはならないということである。それは、見せかけか、無難なこと、下らないことにしか手をつけない者である。成果とは打率である。弱みがないことを評価してはならない。そのようなことでは、意欲を失わせ、士気を損なう。人は優れているほど多くの間違いをおかす。優れているほど新しいことを試みる。(145頁~146頁)』
■以下みなみの思考は続き282Pの「トップマネジメント」について関連付けて語られるのです。これは容易にできることではありません。相当読み込んで手の内に入れていないと引用できるものではないでしょう。それだけ著者のエネルギーが費やされているので読み応えがあります。
■私が心を動かされたのは、ドラッカーの言葉が明快で本質を衝いたものであると感じると共に、そうは言っても「医療や交通機関、飲食・食品などの世界では通用しないのではないか」という思いです。ドラッカーだからといって、頭ごなしに信じるのではなく、個々の状況の中において自分で考えることが大切だということです。
■先程の例の場合では、本番で失敗しない為に、教育、練習が必要であり、細心の注意をはらって仕事に取り組むように動機づけを行なう。チェックを行うという仕組みを創る。というようなことがマネージャーの仕事であると考えれば良いのでしょう。
■本書の特長は、ドラッカーのマネジメントに書かれている珠玉の名言を、ありそうな話の中で学べると共に、小説として読ませることです。読み進むに連れて、徐々に違和感がなくなり、物語にはまり込んでいけます。小説として面白いのです。
■ぜひお読みいただいて著者の腕のふるいどころを満喫して下さい。私は最後の方では「ぐっ」ときて思わず目頭が熱くなりました。小説は二度と読むことは少ないのですが、何せドラッカーの名言に出会えます。時折ひも解く本になりそうです。<完>
- 登録日時
- 2009/12/28(月) 16:05